鉄製の靴が床を叩く音が石造りの壁に吸い込まれていく、城へと続いている長い通路、時々ある分岐は行き止まりになるものが多いのだが、根気よく試していけば正解の道を選ぶことが出来る。
　直接城へと向かえる重要拠点ゆえに一定の間隔ごとに兵舎が設けられ、見回りが行われているのだが、一揆が始まった当初はここまで敵の手が入ることを想定していないのか、弛緩した空気が流れていたことを覚えていた。
　しかし実際には早いうちからここへも進攻が始まり、数日前から警備の増強が行われていた。
　腰に剣を下げた兵士は右手で笛を弄りながら左隣を歩く同僚を見る。黒を基調とした鎧をしっかりと着こなし、緊張した様子で廊下を歩いている、少し臆病に過ぎると思ったが、そとからみれば自分もそんな様子なんだろうなと苦笑しつつ歩く。
　割り振られた担当箇所の見回りは終っている、あとは突き当たりのＴ字路を左右に別れそれぞれの待機場所に戻るだけだった。
　それでも緊張の糸を切ることはできない、一揆衆の中には凶悪なやつらも居ると聞いていた、恐怖をあおるような噂も届いている。
　ふと気づくともう一人との距離が開いていることに気づく、自分がことさら慎重になりすぎたのか、または前を行く兵士が早く戻りたいと焦ったのか。
　一瞬見えたのは白く細い腕、その腕が前を行く兵士を通路の先へと引き擦り込む。呆然とそれを見送リ、一拍遅れて彼は飛び出す。
　視界に飛び込んできたのは小柄な少女が引き倒した兵士に攻撃を加えようとしているところだった。容赦も遠慮もないがいたぶる様子ではなく、意識を断ち切るように強力な一撃が加えられる。
　白いワンピースに大きな翼、その容姿は天使に似ているのに、やっている行為は悪魔のようだ。彼は笛を吹くか剣を抜くか一瞬迷い、柄に手をかけた。
　怖気が走ったのはその直後、振り向きざまに抜き打ちを放つと金属音が響き、弾かれたのだと悟る。
　改めて背後を取った人物を睨みつける、こちらも少女といって差し支えのないような容姿をしていた。上下の白い服は個性に乏しかった、腰には剣を提げているが鞘に収まったままで、これが使われたのではないとわかる。
　金髪の下から見つめてくる碧眼は彼を捉えていたが睨むというほどではない、全体的に無表情でその心境を読み取ることは出来ない。
　のんびりと表情観察している暇はない。柄を両手で握り袈裟懸けに切りつける、少女は動く様子を見せず、剣戟が終るまで実際に動くこともなかった。
　それでも剣は空を切り、そこにいたってようやく白刃が半ばから折られていることを理解する。
　見つめる少女は無表情のままだったが、右の目に黄色い光が灯り、その直後に電撃を受けたような感覚が走る、それを最後に彼の意識は闇へと沈んでいった。
　
　
　
　◆左の部屋◆
　

　サーリャが真剣な表情でフィーナの目の前に立っている、同じ部屋にはシェイミーとフィニーがいるが、人魚ちゃんとグレイ、さらには気絶させた二人の兵士は見当たらなかった。

　それは嫌だな、と思ってフィーナは動きを止めるよう努力する、サーリャはそれに頷いて両手を前に出し集中を高める。
　彼女の体から赤いオーラが溢れ二人の中間点に火球を形作っていく、それはスイカほどの大きさになっているが、フィーナが熱いと感じることはなく、サーリャの言ったとおりだとなんとなく納得して、作業を見守る。

　サーリャがそういうと火球だけが中空に浮いたままになる、そのまま少し動いてフィーナに指示を出す。

　ゆっくりと慎重にそれでも確実に差し入れていくと、なんとなく中心かなと思う部分へ届いた感触がする。
　変化が起きたのはそれとほとんど同時だった。

　炎がほどける様にして、無数の帯状に変わる、それらの炎がダンデライオンを経由しながら彼女のほうへと向かってくる、熱くはないが、目を閉じるなというのは難しい。
　炎はお構いなしに彼女の体に纏わりつく、物理的に感じることはないが暖かさがそれを確信させ、炎が体の周囲に留まると一度激しく発光する。それが収束すると、フィーなの衣装がまったく別のものに変わっていた。
　上半身はクリーム色に赤いラインが入ったノースリーブ、その上から纏うマントは白地に炎のような文様が赤く浮かび上がっている。
　下半身は膝丈のスカート、茶色いブーツは底が強化されているらしく、硬質な音を響かせ、右手には黒左手には白の手袋が出現している、クリサンセマムは腰に提げたまま、ダンデライオンはむき出しになって首からさがっている。
　彼女自身に大きな変化はないが、エンブリオの力を行使する際に光る右目は赤い光をたたえたままだ

　サーリャは近づくと、スカートのすそに手をかけ間髪居れずにめくる。

　そんな左の部屋から、通路を挟んで右の部屋は
　
　

　◆右の部屋◆

　床に二人の兵士が寝かされている、装備は剥ぎ取られ、手足には枷、猿轡をかまされているので声を出すこともままならない。
　先ほどから人魚ちゃんが自分で作ったという男性と男性が濃厚な恋愛を行うとかそういう感じの作品を、音読していた二人の兵士はそれを延々と聞かされていたわけだが、まだ情報をはいては居ない。

　人魚ちゃんが邪悪に笑うとグレイが兵士の一人に近づいていき。

　ベルトを外す音。
　数秒後全力で首を横に振る兵士から情報を引き出して、二人は左の部屋に戻ってきた。なんとなく満足そうな人魚ちゃんと、複雑な表情のグレイだったが、徹底的な尋問をするということを言っていたせいだ、と皆がなっとくしたとかなんとか

　世界が助けを呼んでいた、と語るフィーナ。
　そして送り込まれたという言葉にトカゲは、ふむ、と頷く。

目前の女性から紹介された男性に向き直って、挨拶をしようとした所で、言葉が途中で止まる。それは、男性の両目に光が灯ってないのを見たからか、或いはその纏う雰囲気に呑まれたからなのか。。。

微笑みながら。

複雑な顔をして。

会釈の解説を黙って聞きつつ、その複雑さに
なんだか難しい顔をしている。

そう言ってまたひょこっと頭を下げた。
顔を上げて困ったように

『ペガサス』のハッチが開き、中から女の子が飛び出してきた！

いいらしい。

珍しく難しいことを言っている…のか？

何かに気付いたように一度言葉を切って、少し首を傾げるような動作をする

ごそごそと動きながら上着を脱いで、腰に巻く。

Ikkiを成功に導いて
君も英雄になろう！

と黒字に白で書いてあるＴシャツをドヤ顔で披露して名乗りを上げる