２人の童子が麻袋に詰め物をした、稽古用の剣を持って相対しています。
　片方は『あの時』の赤い髪の童子。そしてもう片方は黒くつややかな髪の童子。
　年のころは双方男児であれば元服しているかどうかといったところでしょう。
　赤い髪の童子が髪を伸ばしほうだいにしているのと比べて、黒髪の童子は切り揃えられた長い髪を背中側は肩より少し下で括っています。

　黒髪の童子が打ち込んだのを赤い髪の童子が剣で受け止め、赤い髪の童子は撃ち込まれた剣の勢いをものともせずに、逆に剣を押し返し、黒髪の童子を弾き飛ばします。
　黒髪の童子はたまらず地面に四つん這いになって倒れ、悔しそうな表情で赤い髪の童子を見上げました。

「ははは、そんなんじゃお館様に稽古をつけて貰うのはまだまだ先やなぁ」

　赤い髪の童子が狩衣の袖で額の汗を拭いながら笑います。

「この馬鹿力！！　ちょっとは手加減しろっ！！　」

　地べたから黒髪の童子がそう叫んで、赤い髪の童子と、その背後にそびえる朱塗りの大柱の見事な御殿を見上げながら不満を口にします。

「人聞き悪い事言わんといてぇな……手加減しとらんかったら、そも、勝負にならんわ」

　愉快そうに笑いながら、赤い髪の童子が手を差し伸べました。
　黒髪の童子はその手を掴み、赤い髪の童子がそれを引っ張って黒髪の童子を引き起こします。

「も…もう一度だ！！　」

「おお、その意気その意気」

　童子達は剣を手に、また打ち合いを始めました。





「山神様」

　相変わらずの真っ暗闇の穴の中、童子が呼ぶと真っ黒い影が姿を現します。

「ほ……最近よく来るようになったの」

「そら、話すことがいっぱい出来たし、何よりお館様が山を治めるようになってから、あくせくと食材集めをせんでもようなったからかなぁ？　」

「……主らの暮らし向きが良くなったのなら、良い事じゃ」

　奇妙な人影は何故だかじっと目を閉じて少し考えた後に、そう、言いました。

「今じゃ酒もこの通り……毎日でも飲めるようになったわ」

　赤い髪の童子がにっこりと笑って担いできた素焼きの甕から柄杓で掬った酒を人影に差しだすと、奇妙な人影は柄杓を受け取って喉を鳴らします。

「ははは、ワシのところへ頻繁に来るようになったのは、これが目当てじゃな？　」

「清酒はまだ貴重品やしな」

　奇妙な人影の言葉に、童子は人懐っこい笑みを浮かべると自分も柄杓を取り出して甕の中から酒を掬い、うまそうに飲み干します

「お館様が来てからこっち……ほんまに生活が良うなってびっくりや。ばらばらに暮らしてた山のモンが集まって色々やるようになって、ぜんぶがぜんぶ上手くいって……今はここらの里山だけやけど、お館様ならいずれは都も手にしてまうかもしれん」

「そうか……」

　楽しそうに近況を語る童子の表情に、奇妙な人影は何故だか言葉を濁します。

「国盗りか……」

カダイエの情報を聞き出せたならば、きっと褒められるし、自分が住まうあの場にいる意味も見出せる。
ほんのりと抱えている後ろめたさも消えるだろうと、その日は去った彼と彼女に丁寧にお願いを、した。

後日。
そこには彼女の姿はなく。ソルト一人である事に特に違和感や警戒心を抱くこともなく。
いつも通りの笑顔で、頭を垂れた。挨拶代わり。

そう言うが早いか、彼女の鎌が勢いよく浮きあがり、

いとも容易く魔女の首を刎ねた。

頭を失った魔女の幼い身体は、力を失い倒れる。
吹き飛んだ首は重量を感じさせる音とともに地面にぶつかり、
転がって……

魔女の身体からは既に、何事も無かったかのように頭が再生していた。
転がっていった首は、消えることなく、そのまま、そこに有った。

首は、そのままふわりと浮き上がり、引き寄せられるように魔女の手元へ。
魔女はあくまで無邪気に楽しげに、自分と同じ顔の生気のない生首をバスケットボールのように手で弄んでいた。

　　　　　　　視線を義手に流し