妖精の護り手との戦闘後、合流して簡単な報告を済ませる。
　その時点で、どうやらみな無事にことが済んだらしいとわかり、安心して、腰を据えた支度が出来た。
　そして、食事中、詳しい話の流れになったところで、その事実が判明した。

「時計の音、しなかったよ」

　器から顔を挙げて告げた精霊のこどもに、思わず隣にいた青年と顔を見合わせる。

「俺らは、相当積まれたぞ」
「その結果、僕の治療では競り負けました。スーノさんの自前で勝てましたが」
「ええと、ラザラスやイリーシャがよくやってるの。気力を、枯れさせるのを、先にしたから」

　そういう術は、確かに最近多用している。精神の壁を超えた肉体への痛みは、時に普通の物理攻撃に勝ることもあり、便利であったので。なるほどそうすれば良かったか、と感心すると同時に、『一度も聞かなかった』という事実に、また首が傾ぐ。

「相当早く決着したみたいね」
「うん。……いつもの、自然のちからで、勝てたよ」

　いつもの、と称されるのは、このこどもが攻撃において行使する、相手を自滅させてゆく術のことだろう。
　非常に有用で、時計と同じく積み重ねられるということで、攻勢に出る時には非常に助かるのだが。

「……つまり、僕らがやられたことの、逆でしょうか」
「そういうことになるんじゃないかしら。アイツ一応回復はするらしいけど、多分追いつかなかったでしょうし」
「らしいということは、レイさんは見ていないのですか？」
「使わせるわけないじゃない、そんなの」

　カップを手に事も無げに言う女性は、その機敏さで翻弄した上、あらゆるすべをもって動きそのものを徹底的に封じたそうだ。
　これもまた、他の誰にも真似出来ないことであり、猛毒や炎上に悩まされた末に何も出来ないまま終わった護り手に、今度こそ本気の同情心を抱く。

「スーとラズの方も、うまくやったみたいじゃない」
「あ、あー。あそこまで溜めに溜めたことねえから、まあ、すっきりはした、かな」
「先ほども申し上げたとおり、治癒力では競り負けてしまったのですが……スーノさんの一撃は、お見せ出来ないのが残念です」
「なー。あのっくらい体重乗せて殴る機会、今後早々ねえわ」

　あの時点で既に護り手への同情が湧いていたが、目の前で花をそよがせるこどもと、茶の香りを楽しむ女性の話を聞くと、なんだかとても申し訳ないことをしたような気分にもなる。

「ともあれ、ひとつ、片付きましたね」

　こどもの手に、勲章のように輝く花飾り——珍しく欲しがるそぶりを見せたそれを見て、ひとつ、安堵の息をついた。

　ぺったりと寝そべり舟を漕ぐ子虎の傍で、青年の半身の狼が、ほんの少し伸びをしたのが見えた。