無事に妖精との戦闘が終わり、目を閉じた男と別れた。自分達は次の目的地へ。男は恐らく、森の中へ。
　取引の対価として、かねてより希望していた調理場への道案内に同行することが叶った。
　その手筈を整えてくれた女性は、精霊のこどもと共に、交換としての森の道案内へと向かう為、支度してる所だ。
　他の四人も、契約を求めて森林へ赴いている。何事もなければ、今夜には全員合流出来るだろう。
　その折には、料理上手の少女と協力して、皆の好物をひとつずつ作ろう。カレーライスや鍋など、さまざまなメニューを思い浮べながら作業を進めると、あっという間に片付いてしまった。

「朝食、出来ました。半分は、今日のお弁当になりますが」
「あら、いいにおい」
「飽きが来ぬ、定番じゃのう」

　事前にメニューを知っていた魔女が、こちらをちらりと見て笑う。
　仔狼と白虎に半ば埋もれるようにしていたこどもが、ふわりと花を揺らした。

「ほら、あんたたち、ちょっと場所開けなさい」

　仲良く——時に賑やかにじゃれあう仔狼たちが、途端にぴくんと耳を立てる。声の調子ひとつに、力があるものだ。
　何とかしなければ、と思った途端、影からふわりと狼が起き上がり、無造作に白虎の首根っこを咥えて引きずる。……どうやら、完全に、このくらいの雑な扱いで定着したようだ。白虎も、狼が近寄ってきた時点で察したらしく、大人しく引きずられるままになっている。食べ物の匂いがしたのも大きいだろうが。

「大丈夫、だよ。ごはん、食べよう」

　そっとこどもが声をかけると、途端に仔狼たちが元気を取り戻す。すかさず皿を女性に手渡すと、ほぼ一瞬で距離を詰めた女性が、仔狼たちに食事するように告げる。

「エンブリオ同士でも、色々と、慣れてきたのう」
「そうですね。先日は、ニグラさんとの共同戦線が見られました」

　思い出すと、微笑ましくなる。
　今日のように、狼がむくりと姿を顕した後だ。やんちゃ盛りのエンブリオの群れに、自分ひとりでは対処しきれないと判断したらしく、まず、ニグラシアという、調査隊の青年の半身に、請うような目を向けた。
　かの狼はそれだけで意向を理解したようで、軽く尻尾をゆらめかせると、揃ってエンブリオ達の下へ向かい、今日のようにひょいひょいと咥えて、見事なコンビネーションで隔離していた。
　近頃は白虎一匹にも難儀している狼としては、随分助かっていたようだった。後ほど、食事中に何やら皿の中身を交換していたのは、その辺りの礼でもしていたのかもしれない。狼に任せきりにしてしまっていたのが、良い方向に作用したような気もした。

「城は広く、エンブリオは多いが——わしらの通った道はひとつ。常に、ひとつじゃよ」
「『選んだ全てがひとつの鍵』ですか」
「よう覚えておるのう。規則でもない、ささやかな一文であった筈じゃが」
「印象的でして」

　今日は、別れて。明日は、集まって。
　先行きを切り開く為に、明日には明後日のことを思う。
　その中で、今日の出来事の話を、することになるだろう。

「とりあえず、調理場を楽しみにしておこうかのう、坊や？」
「はい」

　腹の底から返事をすると、魔女にはそれがとてもおかしかったようで、鈴を転がすような声を挙げて笑った。

真剣な表情で捜索している。