ベルフィのもとへ辿り着くのに、済まさなきゃあならねえ用事ってくらいの相手だな。
だが……エンブリオ使いとしちゃあおそらく suprême な使い手だろう。
用心するとしようか……

おそらくきっと、私の故郷は変わっていく。
昔のままではないから私も変わらなければならない。
けれど、その中で変わらないものも確かにある。

その一点が私にとって一番に美しいもの…のような気がする。
自分でもよく分かっていないが。

そうか。…こう言ってはなんだが
生き物が住めるような場所には思わなかった。
貴方以外には誰かいたのか？

本質……？　正体……。
ううん、そんなふうに言われると困ってしまうな。

ええと……そうだ。僕、前に君に会ったばかりの頃に言っただろう？
心が揺さぶられる、そういった特別なものが美しさだって。
本質だとか正体だとかの形がないもののことは、僕よりも君の方がきっとよくわかっていると思うよ。

僕が死んだら、僕が見たものも触れたものも、覚えているものも、なにもかもなくなってしまうから。
仕方のないことだけれど。

……　……　……。

……違う。似てないよ。
僕はそんなことはしないもの。
やめたんだ。そんなこと……。

お揃い、ね……。
ほう、そういう意味もあるのか？
私の知る言葉ではないな。

わたしはあまり黒という色は好きではない。
清廉な黒も、穢れた黒も、
人の目には同じように映るからな……。

眩しい、か。
元素世界に訪れて、そんな風に
呼ばれる機会があるとはね。
かつては人々をあまねく照らす
啓蒙の光のような存在にならんと
志してはいたが……。

……おまえは自らの意思で
この痛いほどに眩しい世界に？

わたしは生まれの世界を
今でも美しいと信じているよ。
美しいと信じたいだけかもしれないが。
自らの意思に依らず追い出され、
もはや戻ることも叶わぬ身ゆえに……。

窓……

あなたは、たくさんの窓から出掛けていく……

望むのはあなたではない、って……いつか、言って、いたけれど。
あなたを窓として望むひとは、わたし以外にも、いるんじゃ、ないかしら。

だって……あなたは、きれいよ。

冬の、夜明け前……まだ暗いうちに、白く、冷たく濡れた……
外は見えないけれど、なにがしかの予感に満ちた、窓の、よう。

あなたは、とても強くて……なのに、どうして、そんなに……

夜が明けたら消えてしまいそうに、見えるの……？

わたし……わたしは、あなたに、望んでほしい。
わたしのことでなくて、いい……何かを。 誰かを……

ただ、あなたが、どこかへいなくなってしまわない、ために……

……カミユはまあ、あれはあれで特殊なやつだがね。
あいつにはきっと「神がない」って感覚のほうが、
呑み込みがたいことのはずさ。

認識作用が対象を損なうのは……まあ、あんまり好きな言い方じゃあないが、仕方ないところがある、
それが認識というもの、っつうよりも、
人間は無限定の認識を持つことができないからだ。
そういう人間の認知限界に基づいて、言葉はつくられている。

本当に……だからそれは、困難な問いだ。万象は本当にはその姿じゃあないからだ。だからどこかで言葉や精神は対象を見限る。世界はそうしてずたずたになりながら、さまざまの精神はに共有されて、異様な似姿の総体として、形をなす。それを……損なわれていると呼ぶこともできる。豊かになっていると呼ぶこともできる。

あんたはきっと、 《他者》に出会ったんだな。そこでようやく。
他者ってのはいろいろな定義の仕方があるが……まあ例えば、こういうこともできる。「自分を対象化するもの」。
だから万人のなかに、内なる目としての他者がいるし、一度他者に出会ったら、あとは他者なしでも、仮想された他者と無縁ではいられない。
それは、ある意味でひとつの不幸のはじまり、
自足していた完全性から放り出される、
ひとつの誕生の苦難と言い換えてもいいかも知れないが……
でもあたしは、それは、悦ばしいことに思えるよ。

ゆるしが要るってのは、不思議だよな。
単に奪うだけじゃあダメだというんだろう。
あんたそんなにも弱い存在には思えないがね。
ま、しかし、ゆるしpardonって言葉のなかには、譲り渡し don が含まれている。
今まで持たなかったものを持つってのは、そういう、魔術的な譲渡が必要なものなのかも知れねえな……

神はわからないと言ったが、ヤール、
あんたのそうして光に歩く姿は、宗教者に似ているよ。
私はね、実のところ、
真実の名前なんて文化は信じていない。
名前はすべてが仮初めのもので、
そこに社会的信憑性の差はあれど、真実性の差はない。
そういうふうに考えている。
言い換えるなら、
あたしは、「本当のものはない」って立場だ。
無神論者のニヒリストだ。
でも、あんたは違う。あんたは、少なくともあんたの名には……
真なるもののあることを認めている。
それは神や光を信じる古いしぐさだ。

だがヤール、闇の中で、ほどほどの光を知りながら、戯れることもできると思うよ。
あんたにとっちゃそれは途上の道程の身振りにすぎないのかもしれないが、
あたしらはそうしたあんたとの時間を愉しく過ごしてきた。
……私は、
どちらかといやあ、あんたの不死を祈りたいね。

中身ごと削るなよ。外だけだ。

絶望のアナグラムはどうでもいい。
強制契約型エンブリオがどうのこうのもあたしには関係がない。
ただ、ヨーレよォ。
あんたが《王》だというんなら……

——それだけで、撃つ理由にゃあ十分だ。

……わたしは、この世界から飛び立つことはできない。

けれど……君と滅ぶ気持ちにも、なれない

こうなれば、存分に愉しませていただこう。