ぱちぱちと拍手の音が小さく響く。

大きくなったお腹を愛おしそうになでる。

ボクは真剣なまなざしでアユノシャオキィを見つめる。

その瞳に、彼女も逸らすことなく応える。

言葉のあやで述べたけど、事実ではあった。

現にボクは国に認められた呪術師のみしか

勤めることのできない神殿の全権を任されていたのだから。

先の彼女の説明通り、流水の民は出生率が異常に低い一族だ。

だから、子供をつくるにしても事前に呪術を受けるのが必須となる。

着床しやすいように遺伝子を組み換え、さらに母体の保護を図る。

それがこの世界の常識だ。

しかし、アユノシャオキィとボクの子供は違った。

呪術を受けることなく、彼女は子供をさずかった。

アユノシャオキィの言った通り、ボクらの子は無事生まれた。

彼女によく似た黒い髪、ボクによく似た茶色の瞳。可愛らしい女の子だった。



呪術無しによる自然出産。
遺伝子組み換えのない子供の誕生。
そのニュースに流水の世界は騒然となった。

有史以来はじめての快挙だ。
ボクとボクたちの子供は、王都へと呼び迎えられ
国の保護を受けることとなった。

彼女のことを救世主と呼ぶ声が、何処からか広がっていったそうだ。
それほどまでに自然出産は渇望されていたのだ。
ボクたちは国に大手を振るって受け入れられた。







だから・・・・アユノシャオキィが聖母としてあがめられ、
国葬されることが決まった時、誰ひとり異議を唱えるものはいなかった。








産後　ボクのありがとうという言葉に、アユノシャオキィは笑顔で応えた。
そして・・・・やわらかな表情のまま、眠るように息を引き取った。


ボ、　　クは　、彼女を守れなかった。




あの時、彼女に呪術をかけていれば。いや、妊娠前に呪術をかけていたのなら。
こんなことには、彼女を失うことなんかなかったかもしれない。

〜たら、〜れば。

していればやっていればおこなっていればぼくがしっかりしていればむけいかくなことをしなければまんがいちをかんがえていればなにもかもかんがえていればすべてをよそくしていればかのじょをうしなわなかったらぼくがこばんでいたらいしなどそんちょうせずすくおうとしたらたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたらればたられば



後悔が満潮のように集っていく。
淀みに。濁った潮水に。ボクは飲み込まれていく。

腕の中に眠る子供の声に気付かなければ、きっと永遠にそのままだったろう。


スヤスヤと眠る彼女の子供。ボクの子供。
ボクと彼女の子供。




守る。何としてでも。
どんな手を使ってでも。

ボクは……アヴシャケリィを守る。











アユノシャオキィが遺した史料には、ボクの知らない呪術があった。

“色即是空”……時・場所・空間を問わない存在へと転換を行う呪法。全てを問わず永久不滅であれと願をかけた呪い。

自然出産と同じで、この呪術も存在のみ知られるだけで成功例はない。




だけどボクには成功させる確信があった。


呪術は想いの力を現実へ変換させるものだ。
想いが強ければ強いほど、多ければ多いほど。
その力は強大なものとなる。


アヴシャケリィは今、国中から一心に想われている。
その中には彼女の安寧を望むものも多いだろう。


その想いを呪術で変換すれば……きっと成功する。

これさえあれば……今度こそ、ボクは家族を失わなくて済む。

アユノシャオキィ。
ボクは・・・・ボクたちの子供を。守る。








そしてアヴシャケリィは世界全体から祝福という名の呪術を受ける。
最大級の善意で、最高位の呪いを。

抱き上げられても逃げようと暴れたりしない。
大人しく脱力して身を任せる。