目当てのものは手に入れられたか、二人とも？
ま……心配しないじゃあなかったんだぜ。

お帰り、オルガ。

言葉で……？
じゃ、あ……ずいぶん、つたない伝え方に、なるでしょうけれど。

……一番ほんとうに近いのは、骨の、突起。
額の平面を破った、尖るもの……

燃える灯芯や……太陽が地や水の涯に没する、そのきわの色……
その金色をひとの身に宿すと、輝きを失くしてくすんでしまう、その色で……

葉のない枝のように……棘のように、天を向いて、ふたつ。
わたしのものは、左の片側に、並んでいるわ。

……ああ、だめ。
難しい……うまく伝えられない。

……見えない、わからないなら……触れても、いい。
もっと言葉を重ねることも、できるけれど……

……眼、を……得る……、光を、借りる。
誰かの……眼で……

……そんなことが、できるの？

眼球なんて……
貸して、返して、なんて……簡単なものじゃ、ないでしょう……？

それとも、あなたは……奪うの？
ひとの……眼……

……………

その方は、きっととっても、おおきな方なのでしょうね〜
だって、"開かれたおじ様"は、今よりも〜っと大きいのでしょう？
なんて……

あのね、あのね〜、おじさま？
おじさまは、もっとよくばりになっても良いと思うわ〜

"理解された"ってね、瞬間じゃなくって…んん、積み重ねだと、わたし思うの
それに、おじさまはとっても大きいのでしょう？
だったら、それ全部に触れる…っていうのは、一瞬くらいじゃあとっても無理だわ〜

それに、人って変化していくものですもの
さっきまでのおじさまと今の…私と会ってからのおじさまはきっと違うし、
それはこの先もずっと…変わっていくものだと、思うわ

だから…わたしだったら、好きな人のことは"理解できた"って思えることがあったとしても、
きっと、もっともっと…ってどんどん知りたくなると思うわ〜

それはまるで、追いかけっこのようだけれど…
でも、きっと楽しい追いかけっこだわ〜

だから……終わりを待つような…そんな仰りようは寂しいわ
だって、こうしてすこうしお話しているだけのわたしでも、
おじさまのこと、もっと知りたいって思うのですもの…

王に従う下衆な輩とはいえ、俺が敗れた事に変わりはない…。

望みの物だ、持って行け。

だが、覚えておけ。何時か貴様の首を狩るぞ…。

……。改まるね、盲いた父よ。

……。目は感覚器、いくつもある外周を知る器官のうちのひとつだ。
科学や古典は、感官を五つに分けてきた。
だから論理的には、目は魂に世界を現象させるものの五分の一、
たった二割の部分のはずだ。
ところが人は……この目に特権的な地位を与えてきた。
聞くことよりも、触れることよりも、見ることははるかに《真理》に近い。
知恵あるものには目や光の比喩が使われ、
知恵なきものには盲や闇の比喩が使われる……
だからそうだな、
目は、たしかにすべてではないにせよ、一級の《知ること》の装置であり、
特権的に、魂の外延とつながっていると言えるだろう。

世界は人をおののかせるものに満ちている。
なぜなら世界は人にとって、本質的に未知だからだ。
だから世界と触れ合うのなら、人は自らの知らねえものと出会い、
そしておののかざるを得ない。

いや、おののかねえことも、きっとできはするだろう、
何事も既知の枠組みに流し込んで、それで驚嘆を追いやって、
事もなしの王国に安住するインテリ気取りはどこにでもいる。
あんたの言い方を採るのなら、そいつらは、見えたものに跪くことを知らない。

フン……おののかせるその何者かを、《美》と呼ぶのかはともかくな。
意外な言葉だよ。美、美ね……

跪く、という言い方は確かに吐き気がするが、
確かに私にも、頷くあるひとつの流れってものはある。
私を突き動かす衝動には、私は逆らうことなく……
嫌な言葉だが《従って》いる。
私はそれを、そうだな、跪いたとか、従ったとかじゃあなく、
《引き受けた》んだと思っているよ。
そいつは確かに自分のものだ、あたしが始末をつけなきゃいけない、
だからあたしが面倒を見よう。そう、引き受けたんだ。

……ヤールよ。もしあんたにとって、目が、そうした外の世界との通路、
あんたの言う《美》との接点、思い出としての接点であるのなら、
私はそれを、無理に視覚に限ることはないと思うがね。
全盲者にも聴覚はある。触覚がある。味覚がある、嗅覚がある。

ここに私がいる。あんたにはそれがわかる。
私のいる、ここが《外》だ。あんたにも辿り着ける。
……うまく言えねえが、
あんたが目を求めることは、逆にあんたを、あんたの真実求めるものから、むしろ遠ざけるように思えるよ。

滅び？

名前を唱えられると、だと……？
クリスティーナもそんなことを言っていたな。
呪いか、なにかか？

……フン。
あんたを守らなきゃあいけないのは別に変わりゃしない、
刺さる矢の種類が増えただけだ。
どうってこたあねえよ。
名前を当てられて滅びるよりも、
練達のエンブリオ使いのほうがよほど危ねえさ。
だから……そうだ、まァ、用心しろ、それくらいだよ。

フーッ。

悲観的だな、ヤール。
あんたの超然としたところは結構安心感があるんだがね。
まァ……あの庭にいたころよりも、いくらかはいくつも、
具体的な危険があることは事実だ。
だからこそ入り組んだ話にもなるんだろう。
しかし、あんた自身が、あんたの失われることを考えていたとは驚いたよ。
あたしらを失うことを考えているのならともかくさ。……

あたしとあたしのドロモマンヌが、
あの絹の亡霊を引きつける……
長くは保たねえ、頼むぞ。

オルガ、ああ、良かった——、ちゃんと会えたね。
それじゃ、行こうか。

私に歯向かおうなんて、一千万年早くない？

私に歯向かおうなんて、一千万年早くない？