脳が痛む。神経の奥でこだまする。強制契約型エンブリオの忍び入る精神汚染の触感が旧びきらずに遺りながら繰り返す。絶望のアナグラムのなかで凝り固まった致傷が私の意識へ流れて共鳴した。知るはずもないいくつもの顔が、おそらくはパラダイスの来し方のもろもろたちが通り過ぎていった。ドロワに似た黒髪の騎士、白い髪の少女、哄笑する背広の男、手足の生えた白い塊、見ろ check it out と促す縒れた発音……そうして巨大な木があった。ここではないどこか高い空へ伸びる木、私は（絶望のアナグラムは）（そこで彼女はアスペディアという女の姿をとっていた）、その空が《偽り》のものだとどこかで知っていた。もはやここにない過去なのだと。過去の凝る島なのだと。……

いや、それはサバスの記憶だったのかも知れない。彼もまた私とともに絶望のアナグラムの汚染に貫かれていた。押し寄せるその波濤にフィガロとヤールを巻き込まなかったことを、どこか安堵しないではなかった。

紙巻を吸う。強制共感。知るはずのない過去の情景。私の過去はどうやら汚れてしまった。ルヴナンに繰り返す幻に、立ち現れるものが、私のものであるのか、誰のものであるのか、おそらくはもうわからない。特定できない。惑乱する記憶からひとつかみを択びだす、そのなかに逃れがたく一握の夾雑物がある。……

だが闘いは終わらない。
闘いは終わらないことだけが、私をひとまず未来のほうへ押しやっていく。ずたずたの瓦礫と化したいつかの姿を置き去りにして。