いくつものやり方が浮かんでいた。手を拘束する。魔法の行使を避けるための目隠しをする。足を折る。そもそも脈をとる。生きているのならそれでもよかった。処刑は革命を彩る大きな祝祭のひとつだった。ギロチン台を作ったことは二度ある。実際に使ったのは一度。王を生きたまま捕らえられることは多くない。だがその設計図はいつも忘れがたく頭のなかに焼き付いていた。私の記憶はルヴナンに蝕まれ、脈絡や順序はひどく絡み合って整理しがたいが、思い出すべき過去の光景へは写し取ったように軽やかに辿り着く。私だけがありかを知る写本たちの詰まった乱雑な本棚のように。それでも、

それでも処刑は非現実的だった。烏合の衆の革命軍は決まった指令系統を持たず、理想を持たず、法を持たず、革命の目指すべき目的 fin を共有していなかった。税制の改定を申し立てるつもりであるのか。王の殺害と首のすげかえを目指すのか。新しい政体を樹立するのか……戦闘での殺害なら事故だった。だが祝祭としての処刑は逃れがたく政治的で意図的な身ぶりだった。だからこそそれを選びとることには意志が伴い、意志の統一されない祭りであるなら、共同体を再形成しない祭りであるなら、行うことはひどく無意味だった。のみならずそれは革命のありかたを見失わせもした。……

私はどうするつもりだったのだろうか？　王を見下ろして自問する心のなかでなにかが急速に冷えていった。いけない、と思いながらとどめることができない鎮火、かきたてようとしても消えていく熱、メルンテーゼを強く支配したひとつの王の終焉とともに、消えてゆく私の熱情……革命者は、支配者と戦うことを自らの杖として、追い風として歩き続ける。困難な歩行と不可能な歩行を成し遂げるその強い意志力は、王が倒れるとともに、不自然なほどすみやかに潮垂れていく。膝をつく。歩けなくなる。長いこと遠ざけていた無気力が心に忍び寄る。私はどこへ行けばいいのか……ヤールの肩を、フィガロの手をつかまなくては、立たなくては、と、言葉としては浮かぶ当為も内実を伴わないまま行為へつながらずに死に絶える。王 roi 、と小さくつぶやくと、まだ胃の奥で熱が少しだけ疼いた。痛みと呼ぶには小さすぎるそれを意志の起点に、天蓋庭園の奥を、見る……黒い霧の去った先を。

強制契約型エンブリオが何者であろうと私には関係がない。それは所詮エンブリオ、この世界に生きるなんらかの命ではあれ、王ではない。どんな政治的な圧力も支配力も付されてはいない。パラダイスの名を借りて振るったその圧政は、結局のところエンブリオ自身の力ではなく王としての権力に依拠している。そうして私が戦うのは常に権力であって戦闘力ではない。それでも、

それでも、行く先にはネクターがあった。フィガロの命を永らえさせるために私たちが手折る必要のある花々が。そうしてネクターはいまだあの奇妙な輝きを宿し、あの黒い霧のエンブリオの支配下にあることを思わせた。……

強制 force という言葉に思いを馳せる。胸の奥の消えかけた火に、わずかな薪をくべる。立て、と、再帰代名詞を寄り添わせてつぶやくとまたわずかに力が返った。わずかなひとときを、王の倒れたあとにも戦う力が。

パラダイスは、捨て置いて、去った。やつに息がある限り私は立つことができた。今しばらくは、王にも、生きてもらわねばならなかった。私の火種として。……