王城は遠い。見上げた向こうに聳えて、しかし、それは星よりもはるかに近い。道は知れている。革命が始まって四十数日、歩いてきた道のりの一切を私は思い返す。ルヴナンが再現する。再来する <I2>revenant</i> ……そのために歩んできた、歩むべき針路が私には見える。歩き続けることになるだろう。夜、晴れ間を幸いに、星明かりで靴を直した。繕い、紐を新しくし、継ぎを当てて。休む間もなく歩き続けてきたのだった。鎖を外せば、一路に、今はひとりゆく、その男のところへ向かうことになる。私の足ならば、夜通し歩いて、夜明け前に着くだろう。フィガロを連れていくなら今すこしは遅くなるだろうか。それともリリスが彼女の翼となるのか……。

幸いにして農場のそばにはいくらかの民家もあった。道すがら馬を奪えればいいんだがな、と思って、さて、フィガロは乗れたか、と、首を傾げる。抱いて乗ることになるならそれも悪くはない。とはいえ裸馬を操りながらとなるとすこしは不安もないじゃなかった。

未来へ向けてひとつひとつの手をなしていくことは懐かしかった。それは革命よりも遊戯に似ていた。父と母のともに好んだチェスに。

ヤールが父であるのならフィガロは姉だった。それとも妹。過去になくした家族の符牒をメルンテーゼで戯れに面影としながら、けれどそこには母がなかった。生理に従うのなら私たちを生んだであろう、私とフィガロを生んだであろう母の姿が。……

薔薇の香りが夜の底を流れていた。咲くはずもない季節だった。きっとそれは幻の香りだった。遠い過去、この地を彩ったいくらかの薔薇の、あるいは幾万の季節の懐かしさ。……