生い茂る草花を掻き分けていくらかは人工物の腹をさらしている広庭の石畳に、乾いた音が鳴る。硬いものの落ちる音、転がる音、倒れる音。ひとつ、ふたつ、すべてで三つ。目を開けると、四枚の石製のコインが倒れている。偶然に委ねられたそれぞれの表と裏を、いささかは物理法則に支配された順序で、夜空に向けて。ほかのコインの入った革袋を脇に置くと、カラリと残された九枚が寂しげな身じろぎを響かせた。石にはそれぞれのためにあつらえられた絵柄がメルンストゥーラ、あるいはメルンブストゥーラと呼ばれる土着の占具にそれなりの種類を持つ占いの作法を、憶えたのはどちらかといえばひとつの気晴らしのはずだった。占いは嫌いじゃない。組み上げた理論だけで決め切れない最後の後押しをなにか神的な啓示に委ねることは時に心地よかった。そこまで依存するためのものでないにせよおおまかな未来や過去の手触りをしたり顔で器具と手続きに語らせることは、知りえない未来の解釈や知悉したはずの過去の再解釈を新たな顔色でいつももたらした。そうした眺めもまた私にはある種の言語の戯れるによる娯楽だった。

袋からそれぞれに三つ選ばれたストゥーラは弾かれて、思い思いの配列に伏している。過去にあたる箇所には月の裏。現在には瞳の裏。そして未来を示す場所には表を向けた天使。流転、拒絶、導き……それぞれのモチーフが時軸に布置され、啓示は完結する。読解は難しい。コインたちのいずれも、ブランチマンに退けられ、虎たちに敗れたこの数日のことを、指しているようにも見え、弁護しているようにも見える。あるいはまるで的外れにも読める……月が昇り、ひとつの夜が生まれた。夜の中で目覚めようとする新たなる何者かを、けれど瞳は拒絶する。しかしその未熟の蒙を、天使が啓き、導く……詩的な光景であり寓意的な光景でもある。しかしあまりにも素直にまとまりすぎるその神話的な神秘には、少しの疑義もないことはない。私のたわむれるストゥーラはいつもどこかに天使の影を落とす。過去に、現在に、あるいは未来に……単に一枚を作為ぬきに抛る時さえ、確率の壁を超えて、数度に一度は、天使が現れる。

結局のところそれもまたエンブリオの導きであるのだろうし、導いていないのならなんらかの運命に組み込まれてあるのだろう。私の利き手は逃れがたくエンジェルに巣食われている。その利き手が取り扱ういささかに天使がつきまとうのはもはや必然でさえきっとある。天使……メルンテーゼにありふれたいくつものエンブリオのうちの一種。

私のストゥーラはありふれたものだ。呪い屋どころか土産物屋でも扱っているだろう、十三個一組の何の変哲もない石。弾けば表が、それとも裏が現れる。手工業品なりの粗雑な質の差異はそれぞれにあったが、おおむねどれも標準的な色形をしていた。そうした欠如はどこか原初の姿から遠く離れた異端児を思わせた。似通うべき親からもきょうだいからもあまりに隔てられて、己の依って立つ場所を失った残存する形骸……

メルンストゥーラを弾く賞金首のことを知らないわけではなかった。それらが人智を超えた姿へ転ずるという噂も。そこでは占いはもはや占いという機能を離れ、おそらくはより神的な何者かによる伝達の相をなしているのだと思われた……人智を超えた姿へ、人を転じさせる何者かの。天使 ange は語義的に元来《伝令》を意味する。あるいはそうした通路にも天使が潜むのであるかもしれなかった。……私たちの潜んだ森に現れたというそれらの賞金首たちと、出会いたい気持ちのないと言えばおそらくは嘘になった。出会えばどちらにも穏当な結末はあり得なかっただろうにせよ。

目の前の女性が言っていることが半分ほども理解できていないようで、けれど一言も漏らすまいと耳を澄ませて声を大事に記憶する。
なんだかざらざらと頭の底をやすりで撫でられているような感覚になる声だなとルルゥロは思う。

やはり心底けろりとした様子で言って。

そういってぺこりとお辞儀をし、仲間の元へ駆けていった。