壁を殴りつける音に驚き、びくりと身体が跳ねた。それと同時に、戦いの熱気と、捕り逃した脱力感から我に返る。息を吸い込むと、腐臭と肉の焼ける臭いの混ざったなんとも言い難い悪臭が鼻を突いた。
　この地下牢に入ってから嗅覚を苛んでいる腐臭はエンブリオの炎で幾らか薄れてはいたものの、辺りに転がる死骸から新たに立ち上る臭気までは消すことができていなかった。

　死骸。司教を名乗る男が呼び出し、操り、身を護る盾にしていた代物。
　腐乱死体や白骨はどうか知らない。ただ、あの額に札を貼られた少女だけは、今の状況を望んでいるように思えた。
　腹を蹴り上げられ、動きを止める前に絞り出した「眠りたくない」という悲痛な声が耳に残っている。

　——あいつが呼び出し続けた腐乱死体や白骨は、どれも皆似たような事しか口にしていなかった。生前の意識があるなら、多少は違う事を話してもおかしくないはずだ。
　あいつが死体を操るときは、何か「決まった意識を刷り込む」ものだったのかもしれない。少女の死体も、現状に喜び、あいつを慕うように刷り込まれたのだろう。
　そうだと思わなければ、今夜は眠れそうになかった。

　　　（じぃぃぃぃ）

スチュの眼を見据えると…

ぺこり、とあたまをさげたあとにすこしばかりのPSをてわたしました。
そのままじぃっ、ときょうみしんしんといったようすでみつめています。

かすかにゆれるほそながいしっぽにしせんがくぎづけになっています。
なんだかいまにもとびかかってきそうな、そんなふんいきです。

　　　　　　　薄く削いだ竹と露草を編んでいく