いつもと少し違う様に見えたルドの事は気がかりだったが、時間は待ってくれない。
次の場所へ、と移動するべくルドとゲオルグと別れ、今度はメィレーと共に。
今度の目的地は砂地。木々の無い方へと移動すれば、森の力は、加護は弱くなる。
まして春楡の樹の精である処のハルニレはその影響を最も受ける。
本来なら契約者が居るのだから、人型を取れてもいい位であるのに
仔リスの姿のまま、主の肩にぴったりとくっついている。
元々彼女が宿っていた春楡はもう無い。
焼き払われ、消えてしまったから。彼女は殊更に弱い存在で。

「……大丈夫ですか？」
「だいじょぶ。こんなことくらいじゃめげないもん」
「余り無理はしないで下さいね」
「うん！もう少し馴れたら、きちんと実体化出来るように！なるもの」

すり。頬へ体を寄せながら、意識に直接語りかけるような不思議な声がする。

「ヘム、前と少し違う感じがする」
「そうですか？」
「うん。契約者の傍にいるから力が安定する、だけじゃなくて。もっと、こう」

じい、見上げる仔リスの瞳と視線が合わさればとても不思議そうな様子だ。
己手に常にある白い林檎の木で作られた杖と、黄昏の瞳を、交互に見

「……もしかして。いるの？」
「……はい。居ます。確かに」

胸に手をあて、微笑む。その何処までも穏やかな表情に、そっか、と小さく漏らす。

馴染んだ感触。掌に確かにある杖をぎゅ、と確かに握り、二人共に振り返った方角は——

と、苛烈な魔法使いの仲間のことを頭に浮かべつつ。。

目の前の女性の紡いだ言葉に目を屡叩かせ、それから柔らかな笑みを浮かべた。

そう、腹の底の泥を吐き捨てるように言った。

おどおどしているが、自身のうねり続ける模様の身体を見せるように頭を持ち上げて見せる。

問われればすっと自慢のキュウリ(と自称しているがどう見てもニガウリである)を掲げ、

河童を後ろから抱え上げ小さなクチバシを指で挟み、必死に黙らせようとしている。

『……男性の』

　
　宙に浮かぶ白と赤のそれが、ふわりと眼前に現れる。ほんの少し首を傾けたそれは、つ、と片手を己の胸に当てた。
　

　
　するりと、滑らかに名だけの名告り。
　ついで、その手を緩やかに向かう彼女の胸に向けて。そうして、もう一度、首を傾けた。

　
　確認のつもりなのか、二つのそれを並べて。
　そうしてまた何度目か、その顔を覗き込むように黄昏を窺った。

エンブリオを介してそこまでの魔力を出力できれば、の話だが。

　自分の魔術や禁書の知識は、全て母から教わった。
　彼女もそうなのだろうか、と、小さく首を傾げつつ。

　クロさんと逢えて良かったです、と嬉しそうに笑う。
　すぐあと、彼女の言葉にはやんわりと笑いながら、頷く。

　もう、随分前の事のような気がする、と、遠くを眺めて。

威嚇しそうなカエルをつまんで回収する。

姿も自在にかわるんですか？と首をかしげた。
そうだとしたら、この動物たちも本当はもう少し別の姿なのかもしれない。

魔法のようなそれは、今まで知らなかった世界。

通せないと言った紫の髪の青年に、決してよい顔は出来なかった。
彼の言葉は一揆を阻もうとする者の言葉に間違いなくて。

同時に、確かに漂う気配に、退くわけにはいかないと、杖を強く握る。

笑った様な表情のまま。瞳の憂いは隠せず。呟きはとけて、消える。

仔リスから変化した、にこにこと屈託なく笑う小さな女の子がそこには居た。