私には以前多くの師がいた。呪医、暗殺者、冒険者、学士……それぞれが皆異なる面で私を鍛え育てた。その殆どが、もう居ないといえど、私なりに思うことはある。経験と知識に自らを縛り付けることを私は良しとはしない、が、一握りの冷酷は記憶とそれらとの繋がりを遮断し、雲のように霧のように私という器を隙間なく埋めている。
技能に紐付けされた記憶は、その技能を日用する度に再帰するものだが、技を技として習熟するにつれてそれらは切り離された何かとなってゆく。歩く度、食器を使う度に親の顔を思い出しはしない。冷酷なことに。

私がここメルンテーゼに逃げ込んでからというもの、実際に体を使った戦闘に自らを投じることが増えた。徐々に勘の使い方は戻っているが、まともな戦い方のひとつでもあれば良かったと後悔はするものの、それなりに通用する運は持ち合わせているようだ。
私の筋力では「両手持ち」を枝のように振りまわすことはできない。せいぜい体幹を軸に遠心力で叩き割るくらいが関の山だ。これまでに練習と称して戦った連中の中にもし剣の心得のある者がいれば一目で異様さが判るだろう。
私の虚弱さでは放たれた技を受け切ることはできない。これは過去にそう教わってしまったからだが、隙を作るために急所を外し続けながら戦うようにしているせいで倒れないだけで、実際には痛みもある（顔に出さないのは得意だが）。拳を主とする戦士には私の身体の弱さは手に取るように分かっただろう。
だが、これら不器用な戦い方であっても、組み合わせれば緩やかな袈裟斬りが正確に相手を捉えることもあるし、絶対に倒れることのない不死身の肉体に思わせることも十分可能だということを証明できたのは大きい。

中には化け物のような者もいるが、私や他三人がこのくらい戦えるのなら無事に済むだろう。私はそう踏んだ。
だから今日のこの判断は愚かなものにはならないはずだ。

-天使に照らされる激しいライトが彼女———『不屈剛筋』『怒れる猛牛』バルシェを照らす。
だがこれから天に罪を裁かれるその咎人は、溢れる筋を暴力に転化するべくして、その顔から
邪悪な笑みを絶やさない！-

-いずこから現れた謎のカメラマンに、
もうピクリとも動かないトキサメをロックして中指を突き立てる！！-

-観衆はざわざわと大きな波音を奏で、それが最高潮に高まった時……-

-愛娘への残虐行為のみならず、指名しての挑発である！！！！-

（剣を鞘にゆっくりと納めると、絶叫が静かに現れて消える）