仕方ないといえば仕方ない話であるが。　現状には理由がある。
モルト・スフォルツァートの技は音の反響を利用するわけで、本来は専用の部屋やステージを用いて行うものだ。
　野戦、しかも物質の構成が異なる異世界での話となれば、実力の1割も出せないのは道理。
それでもある程度音源に出力があれば、狙った効果を相手に齎す事ができるのだが・・・
モルト自体の力は余り強いほうではなく、その要件を満たせない。

言うなり工作を始める事数時間。
文字通り寝食を横に置いての突貫工事で出来上がった「不思議な楽器」を手にほくそ笑むモルトがいうには、とある研究屋から盗み得た異界技術を応用し、既存の楽器を越えた性能と出力を獲得したもの——ここでいう性能や出力はモルトの音感についてこれる繊細さと、吐き出す音のボリュームの問題だ。
外見もおぞましく、楽器の固定観念をなかば超越している。
拡音器を内蔵した電子弦楽器　と一言で表すのは簡単だが、其処には弦も弓も無く、代わりに魔法的な発動媒体が埋まっている。
メリケンサックと見まごうばかりの巨大なピックで光の弦を爪弾く、六絃琴の形をした機械装置。カタチこそギターやベースに近いが、機能は寧ろシンセサイザー　という事か。

事、音楽に関わるものであれば、ねじやドライバーの恩恵すら無しにこういう者を造って魅せてしまうあたりが、必ず一つ以上の才能を持って生じるアイオネラ人類の異能といった所だろう。

見るものがみれば、その大見得が伊達やはったりでないことは判るだろう。未だに試作品と銘打ってはいるが、単純に質量だけ見ても3本束ねた魔法の杖みたいなものだ。

ベルトで担いで意気揚々。　ミニドラゴン征伐に向かうというモルトには先程までの焦燥感というか劣等感というか、そうしたマイナス要素はすでに全く感じられなくなっていたが——












故人曰く、「道具に頼る奴はサンシタ」というフラグを知らないようなのである。

言いながら我が身で水芸を始めた。