"神託の世界"と呼ばれたこの世界では、遥か昔から神が遺したとされる神託（予言）に沿って世界の人々は生きてきた。
その予言が何時から有るのか、神なる存在が本当に居たのか。それは何一つ記録として残されていない。
予言と言う存在だけが今に伝わっている。

　その予言は酷く正確だった。
他の分割世界でも見られるような抽象的で漠然とした言葉での予言では無く、端的な言葉で世界に起きる事象を予言していた。

　予言は数年、もしくは十数年単位の間隔で世界に発生する大きな事象を大雑把に告げていた。
告げるだけの時もあれば、その事象に対し人々が採るべき選択を指示する事もあった。

　もしかしたら、そんな予言の指示に対し、大昔の人間は逆らうような真似をしたのかもしれない。
しかし、予言は未だにこの世界に存在し続け人々の進むべき標となっている。
それは大昔の人間が、予言に逆らい手痛い思いをした反省からなのか、それとも予言の正確さを信じ安定の日々を続けた結果なのかは分からない。
ただ、予言に沿って進めばこの世界に間違いはないのだと、今の多くの人々は信じきっている。

　過去から未来へと継がれるその予言が何時まで先の事象を予言しているのかは、一般の人間は知らない。
それでも五千年程先の事象までは予言されているらしく、人々は知りたければ五千年程度先までの予言を写した書を買い求める事が出来る。

　その予言の写しを見る限り、今までは手の打ちようが無かった竜災さえも約120年の後には解決されるらしい。
予言を写した書には、120年後の予言に一言「竜による災は人の手により終息する。」とだけ記載されていた。

　このグレイナードも120年後に竜災が終息するのだろうとは思っていた。
今まで当たり続けた予言が今更外れるとは思っていない。
その点では、やはりオレはこの世界の住民なのだろう。
ただ、その幾ら予言を信じていようと「竜による災に手を出さないこと。」という指示に諸手を挙げて賛同する事は出来なかった。

　予言は今年、大規模な竜災が発生する事を告げていた。
それだけならば良いのだが、今回の災に対しては「竜による災に手を出さないこと。」という指示があったのだ。

　指示を遺したからと言っても、それがイコールで特殊な事例だと言う訳ではない。
予言は人の眼から見れば実に気まぐれで、竜災を正確に予言しかつ人々を退避させる指示を出していたこともあったし、逆に一言「竜による災厄が発生」とだけ書かれていることもある。

グレンにふわりとした風が一瞬纏わったがすぐに吹き抜けていった

　
　　　　　 まあ次は、どの理不尽が良いかって話だけどね・・・と笑う。　

　
　　　　　 そこで、ふと意地の悪い笑みを浮かべる。　

　
　　　　　 にやりと、何も読めぬ視線を向ける。　

ぐっと、強く、拳を握り締めた。