リリエッタのグラスに亭主から渡された酒を注ぐ。
先に味見をしたところ大分度の強いアルコールだったようだが、リリエッタなら多分大丈夫だろう。
（天使なんだし）

　メルンテーゼで開かれた第三回闘技会（一揆の最中に随分と余裕があるな！）の覇者は、リリエッタ達に決定した。
それも、オレ達が以前の闘技会で敗北した「過去庭」の連中を倒しての快挙である。

勿論、知らない連中が勝利するよりは幾分と、その快挙に対し祝福とか、褒めてやろうとか思う気持ちはあった。
…しかし、一方で未だに大果を成すでもなく燻り続けるオレの立場と、比べざるを得なかったのも事実だ。

　リリエッタは気付くまい。
酒瓶を傾け、グラスに酒を注ぐ時に思ったオレの嫉妬心や、自己嫌悪の感情などには…。

　例えスタートラインは一緒だったとしても、各冒険者の腕前次第でその力量差は徐々に大きく広がってゆく。
生まれの貴賤も関係ない、それどころか、人間や天使、魔物だろうとまさに実力だけがものを言うのが冒険業だ。

　それだけに、オレは敗北感を拭えない。
そして、必死に焦り、ともすれば特攻的な発想に至る自分の心中を理性で留める。
自暴自棄になっても何も変わらないのだと。

　恐らく多くの冒険者が感じているだろう、この一揆の終結に向かい、ここから先は一手のミスも許されない。
慎重に、そして果敢に、時を得て動こう。
決して無双の強さではないが、全く弱い訳でもないのだからな。

　オレは最後まで勝利を狙う…ッ。

安酒場の労働者の如き単語選び。
本人も多少の恥じらいを覚えたか、僅かに頬を染める。

だが、それも僅かな間のこと。
終始にこやかであった表情に、そっと暗い影が過ぎる。