夜営のさなか、見張りを交代して、ひとりになった夜更け。
かばんの中から、ふとひとつ、小さな光が飛び出した。

くるくると回りながら飛ぶその光は、ずいぶんと古株のエンブリオ。
この旅の、初めから…それこそ、故郷からずっとついてきてくれているエユプの、その次に来てくれたエンブリオ。
はずかしがりやで、ひっこみじあんで、でも一生懸命、怪我を癒してくれていた。
最近は、ほかにも癒しの術を持つエンブリオが増えてきて、あまりお願いすることはなくなっていたけれど。
ふわふわと、内緒話のようにくすぐったく飛ぶエンブリオの、声なき声に耳を傾ける。
ふんふんと、小さくうなずいていたその目が、驚いたように丸くなった。

はずかしがりやで、ひっこみじあんで、こわがりで。
そんな彼女が、思えばよくここまで着いてきてくれたものだ。
彼女にとっても、限界だったのだろう。そう思えば、引き止めることも出来なかった。

エンブリオはくるくると回った。
大丈夫、というように。
くるくる、くるくる、幾度も回って、そして　ふっ　と消えてしまった。
少し寂しそうに、でも、楽しかったよ、と言いたげに、消えていったその光は、ずっと目の中に残っていた。

　胸を張る様子にくすりと笑った。
　実際のところ、あんまり納得はしてないものの、
　その気分を害するのもなんだから、それ以上は言わないでおいた。

　エンブリオ同士、言葉は通じたのだろう。
　からかうような動きと言葉に、何度かその場で羽ばたいた。追い払う、とまではいかないけれども。

　

　考えるのは歩くことに似ている。そうなのかもしれない、と思った。
　何となく、もやもやが晴れたような気がした。

　それから、信じていなくちゃね、という言葉に深く頷きを返す。

　なんて、笑うのだけれど。

　名前を呼ばれて、それから言葉は続かなかった。
　不思議そうに、それから少し心配そうに首を傾げた。

　その声音は、どこか苦々しいものだった。自信も、あまり無さそうに。

　靴下についての話を聞けば、納得したように頷く。
　確かに、彼女の足に合う靴は無さそうだ。

　ちょっと貸してみて、なんて言って、ケープを受け取ろうと手を差し出した。

歌うように呟いて、羽根ペンを持った右手を伸べる。
羽根ペンに宿った光のひとつが飛び出して、くるくると回り始めた。

ひとつ、ふたつ、みっつ。
回るたび、辺りの温度が下がっていく。
吐く息が白くなる。ちらちらと、白いものが落ちてくる。
星まで凍らせるような冷たい風が、サッと下から上へと吹き上げた。
目を開けると、いつから立っていたのだろう。
そこには、白い肌、赤い反物を携えた女がいた。

塩レモンのキャンディーだ。それを彼女の手に転がして、笑った。

大理石をゴリゴリと削り形を整え、ふかふかとした布を接着してと、
真剣な表情で手元を注視し。やがて出来あがったスリッパを差し出して。

　
　　　　　　　　　　　　　仲良し二人組の空白二日間。