「ね、ウルヘア。似合うと思う？」
「……ピ、ピーィ」

　地下牢。今はみんな休んでいて、私が見張りの番。
　壁を背に座り、隣に居るウルヘアに私はそう訊いた。面倒くさそうに、と言うかどちらかと言うと、困惑したように肯定する鳴き声。
　無理もないか、と思う。多分、これで昨日から10回くらいは同じことを訊いた。
　一昨日は無かったもの。ピンブローチ、それにヘアピン。
　どちらもトーコから貰った。誕生日のお祝いに、って。
　トーコにもウィルにも誕生日は教えていなかったし、彼らと合流してプロフィールシートを渡したのはつい最近だし、誕生日は過ぎてるし。まさか、祝ってもらえるなんて思わなかった。
　すごくびっくりしたし、何より嬉しかった。
　二人には、また何かお礼をしたいなと思う。誕生日も、訊いておかないと。

「これ、やっぱりウルヘアに似てるわ」
「ピィ！」
「……もっとキリッとしてる？　そうね、この子はちょっとかわいいかもしれないわね。でも、私、気に入ったのよ」

　戦う時に付けて、万が一、壊したり失くしたりしたら大変だから、一揆の最中はあまり付けられはしないかもしれないけど。大事にしよう。
　もう一度、貰ったものを見る。
　太陽と月と鳥の飾りと、ビーズが付いた、落ち着いた金色のピンブローチ。星空を閉じ込めたような石の付いたヘアピン、二つ。
　トーコのことだから、きっと一生懸命悩んで選んでくれたんだと思う。私のために。

「……うん、やっぱり嬉しいわ」
「ピーィ」

　それと、母様に見せたらきっと喜ぶだろなと思う。
　故郷では、あんまり友達はいなかった。子どもが少なかったって言うのもあるけど、……まあ、私の性格的にも。物言い、きついし。
　だから遊び相手はもっぱら、ウルヘアやニコおじさまだった。
　誕生日を祝ってくれる友達ができたんだよ、って。言ったら、喜んでくれると思う。楽しみだ。
　楽しんでらっしゃいね、なんて母様は言っていた。呑気なものだと思ったけど、色んな人に会えたし、ちょっとくらいは楽しんでも良いのかな、なんて最近は少しだけ思う。ちょっとだけ、だけど。
　そういえば、ミハウも、『友達』で良いんだろうか。改めて訊くのも何だか変だけど、どうなんだろう。
　最近は、ミハウともそれなりに上手くやれている気はする。それは、良かった。
　あ、そうだ、と私はウルヘアを見て、思い出したことを言う。

「明日はみんなで……ええと、写真、を撮るんですって。ウルヘアも聞いてたでしょ？」
「ピッ！？　……ピーィ！」

　トーコたちは、不思議なものを沢山持っている。『スマホ』とか、『めーる』や、『でんわ』。ミハウも知らなさそうだったから、やっぱり世界の違いって大きい。
　『ポラロイドカメラ』と、『写真』もそうだ。
　誕生日を祝ってもらった時に、写真を撮ってもらった。と言っても、『クラッカー』の音にびっくりして振り向いて、その時に不意打ちで撮られたから、貰った写真の私もミハウも、変な顔をしていた。
　ウィルもトーコもすごく楽しそうな顔してたから、まあ、良いけど。

『あのさ、4人で写真撮ろう？　人数分！　僕も欲しいし、みんなにも渡したいから！』

　それから、そう提案したのはトーコ。別に反対する理由も無いし、私も欲しいなって思った。
　だから、明日。みんなで写真を撮ろうと。

「ウルヘア、そんなに警戒しなくても大丈夫なんじゃないかしら。光るから、ちょっとびっくりはするけど」
「ピーィ、ピィ！」
「……そ、一緒に写る気は無いのね」

　ウルヘアは頑固なところがある。こういう時は何を言っても無駄だ。
　しょうがない。明日までに説得するのは無理そうだから、いつかまた撮ってもらおう。それまでに、ウルヘアにはちゃんと言っておかないと。
　それから、明日はもう一つ。
　クリスマスも近いことだし、ミハウが料理を作ってくれることになっている。私も、手伝うつもりだ。
　前にウィルと話した時、ミハウは料理が上手いと私は言った。そのお手並みを拝見したい、って。

『ミハウ、料理には自信があるんだろ……コトカちゃんが言ってたぜぇ？』

　ウィルはそう言いながら、エリンギを提供してくれた。
　エリンギ。
　森で拾った奴。前にこの4人で、森に行った時に。
　私が、襲ってきたシュリーカー（あの毒々しい色のキノコは忘れられない）にあれだけ警戒してたのに、ミハウもウィルもキノコを拾ってきた。その内の一つだ。
　私って神経質なんだろうか。まあ、あれは正真正銘エリンギだったから、大丈夫なんだろうけども。
　ともかく。ミハウの作ってくれる料理はおいしいし、折角だから、みんなで食べられたら嬉しい。ウィルの提案は、素敵だと思った。

『え、ああ、……そう、ですね。折角、ですから。何か、作りましょうか』

　ただ、ミハウの返事は——何となく、精彩を欠いていた気がした。いつもなら、もっと喜んで作ると言いそうなのに。
　どうしたんだろう。ここのところ、戦闘では沢山の敵を相手にしているし、疲れているんだろうか。何だか、最近ぼんやりしていることも多いし。
　それなら、頑張って手伝わないと。



　***

連れて行かれた先で二人に挟まれて、思わず萎縮し。
困ったような顔をしつつ、おずおずと話し出して。

良かったのだろうか、と、二人を交互に見。

顎に指を当てて考えながら

そんなに多くないかなぁ、と不思議そうにして

真剣な表情で頷き

コトカの言葉に、瞑目をする。
何かを思い返しているのか、あるいは感情を落ち着けているのか。
その右手は、痛々しい程に強く握られていた。

それでも瞑目は1分もなく。すぐに目を開いて。

小さく、礼の言葉を述べるのだった。

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勝てる気がしないのだろう。色んな意味で。

ウルヘアを、ちらりと見て。

実感の込められた口調で、フィーグルは語った。

帰る方法と同様に、恐らく、その方法も模索しているのだと思われる。
彼女の言う通りだ。
分からないことが多過ぎて、不安の芽をいくら摘んでもキリが無い。
ブレスレットについては、

だから気にするな、ということなのだろう。
フォローらしいフォローにもなっちゃいないが、遠回しに、そう。

緩く首を横に振り、彼女の口から聞く“高層ビル”が自分の知るものではないことに気付く。
も、そもそも、彼女が“高層ビル”を知らないのだ、と気付いて、

情報収集などをする時に用いているメモ帳、だろうか。
ポケットから取り出すと、一戸建ての家とビルとを並べて描いて見せる。

納得したような彼女の言葉に、くすくす笑って「でしょ〜？」と頷いた。

そして、彼女が語る森の生活、そのひとつひとつに興味深げに耳を傾ける。

などと、食いしん坊なのを恥ずかしがるように身をよじらせていたのだけれど。

普段自分がやってるように足を動かそうとしてみるが、地面をわずかに引っかくだけで終わった。

こちらも行く気のようだ。
約束よ、と言い添えると立ち上がる。わずかに伏せられる青い目との距離が、縮まった。

　案の定、異質な敵が多かった。
　予想はしていたのか、前回よりは気を取り直すのは早かった。さっと杖を構える。

　イヌワシは羽ばたき、杖に括りつけられた結晶がきらりと輝いた。