「さて、もう一つの理由についても話しどぐが」

　第二に——『父親の捜索活動』。

「そもそもオイは、一揆ん参加するためにこげな場所まで来たわけじゃなか。あくまで親父の無事を確認するためじゃ」

「……そうだったな」

　クロの父親であるハガネは、彼が出立する一カ月ほど前に一揆衆へ合流するため村を離れた。日に一度の定時連絡が途絶えたのは、それからおよそ3週間後。

「連絡のあった頃は、いつも通りうぜえぐらいにテンション高かったからの。心配はしちょらんかったが」

「俺はこっちに来て三日後には契約解除されちまったからナ。その後の様子はわからねえ……だが少なくとも、今クロが戦ってるレベルの敵なら余裕で倒しちまうだろうナ」

「ああ。そういや阿近、親父ん連れてきたエンブリオは何体じゃ？　流石にお前だけちゅうことはなかよな」

　クロの問いに、阿近は右目を瞑り考え込む。

「えーと、俺以外は確か……兵衛（ひょうえ）、マリア、ディード、十九の四体ダ」

「元々契約しとったのはお前と兵衛だけだったな。『策士』のマリアに『鏡姫』のディード、『剣聖』十九——中々の力の入れようだ」

　ハガネの元々の能力に、十分すぎる戦力。彼の力を近くで見てきたクロは、その時点で一揆の成功を疑わなかった。

「だが、今なお親父と連絡が取れんっちゅうのは事実じゃ。進軍の合間にちょくちょく情報収集はしちょるが、成果はあがっとらん」

「——それで、その事と襲撃に何の関係が？」

　結論を求めたのは、五洋だった。

「うむ。親父はおそらく、オイがこっちん来とることをまだ知らん。そこで、親父にオイの状況を知らせるために——手っ取り早く名を売るために、賞金首んなる」

　短絡的といえば短絡的だ。だがクロには、これ以上の策を思いつく能力も、また時間も持ち合わせていなかった。

「単純馬鹿の親父のことじゃ。もしオイが賞金首になったことば知れば、真っ先に殴りに来るじゃろ。ただし」

　生きていれば。その上で、五体満足であれば、の話。

「お袋もちぃと心労がたたって寝込んどるんじゃ。連れて帰るのは無理にしろ、最悪『そこ』は早いとこ確定させて、心配やら不安の芽は刈り取っておきてえ」

「ん、ああ。生死、ってこと？」

　スゥの問いに、クロは頷いた。

「あん親父が簡単に死ぬとは思えんがな。ま、一揆衆への襲撃ん理由はざっとこんなとこじゃ」

　一息つき、クロは焚火を囲むエンブリオ達を見回した。

「どうじゃ、異論反論、あれば言うてみい」

　——暫しの沈黙。それを破ったのは、一陣の風。

「クロに同意する。賛同はせんが、反対の意見もない。私は常に、クロと共に歩む」

　源三が一番にクロへと歩み寄った。この中では一番付き合いが長く、言葉の意味の通り一心同体である源三だからこその結論。

「俺も反対する理由はねえナ。ハガネの所在は俺も気になってたとこだし、クロがそうするってんなら付き合ってやるゼ？　できればハガネの意志の通り、一揆も完遂してやりてえとこだがナ」

「決まった目的があるのなら、私も特に反対意見はありません。……私達の縄張りを荒らすのは、王の軍勢も一揆衆も大して変わりありませんから。襲撃自体に特別抵抗はにゃ……ない」

　阿近と五洋もそれに続いた。元々野生の彼ら（阿近はごく短期間ではあるが）にとって、一揆衆を襲撃することに対する忌避感は薄い。そしてその上で、阿近はハガネの捜索に乗り、五洋はクロという人物を信じ、結論を出した。

「へっへ、面白そうじゃん？　このままクロと居れば退屈することはなさそうだ——な、権六！」

「ま゛！」

　ぐっ、とガッツポーズで応える権六。何を考えているのかいまいち分からない二人だが、この場はクロに賛同することに決めたらしい。

「——良し。したら明日から行動開始じゃ、頼りにしとるぞ」

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「いいのか」

「何がじゃ」

　寝転んで夜空を見上げるクロに、源三が声をかけた。他のエンブリオ達は思い思いの場所で睡眠・休養を摂っている。

「もう一つの目的だ。あいつらには知らせんのか」

　源三の言葉に、クロは表情を変えず返した。

「目的ん言う程の事じゃなか。所詮はオイの我儘じゃ」

「……そうか」

　源三はそれ以上言わず、やがて夜風に紛れその場を去った。月明かりにクロの影が伸びる。

『——死にたいのか』

　その影が、ゆらりと蠢いた。

「何じゃ。新手か」

『——我が名は【Ｍ】。汝の影に憑きしもの』

　片膝立ちから、戦闘態勢への移行準備をするクロ。月を背負い、己の影と対峙する。

『——テツオの名は、捨てたのか』

　ぴくり、とクロの片眉が動く。

「『テツオ』は死んだ。もう居らん」

『——そうやって、クロも殺すのか』

　無言。それを以て、クロは影への問いの答えとする。

　第三の目的——『死に場所探し』。