ぴろりん，と電子音が鳴った。
着メロをつけようとは思ったが，いかんせんピンとくるものがなかったクロは，デフォルト音を使用している。

片手でセキュリティモードを解除，シロがぴょこんと画面から飛び出してくる。

『やア，めールが届イてるヨ！
　ミさナからダね！』

ミサナ，という言葉を聞いたクロが苦笑する。
男兄弟が多い中でも数少ない女兄弟…姉であり，少々問題は残るが良識派で間違いない。
39番目に打たれた大脇差。
刃質の希少さと異質さにより，真打としての素晴らしさがありながら影打として扱われた不遇の逸品。
そして，何よりも複雑な経緯で力を得たイレギュラー中のイレギュラーである。

「今は…旅行じゃったか。」
『うん！
　無事ニ旅をシてるヨうだヨ！』
「何も無ければそれに越したことはあるまい。
　…なんじゃと，河童の鼻くｓ…いったい何を考えてるんじゃ。」

シロと会話しながら添付された画像を見，絶句する。
明らかに際物と思われるその商品を手に，楽しそうに笑っている少女の姿。
それだけを見れば微笑ましいが，商品名を見てしまっては絶句か爆笑の選択肢以外にあるまい。
彼女は，今を本当に楽しんでいる様子であった。

「…良い事じゃな。」
『そうダね。』

手早く返信すると，そっとスマホをしまう。
今はそれでいい。
それでいいのだ。

物静かそうな、柔らかい物腰の竜人が現れる。

しかしおとなしく撫でられる子狐であった。