Halshuggning -13-

(from http://lisge.com/ikki/rb/k/k91.html)

目の前に居る女に何があったのか、知らない。
目の前に居る女が何をしようとしているのか、知らない。
目の前に居る女が今、触れる男との間に何があったのか、知らない。
僕は何も知らない。
知らなくて良い事。
知る必要も無い、そう思っていたはずだった。


粉薬と霊水を混ぜる指先。
迷いなく印を描く、筆先。
ミチエーリの所作一つ一つが、お前は何も知らないのだと、そう苛んでいるように感じて、苛立ちが募る。
だから、ミチエーリが放った短剣の鈍い輝きに、つい口を挟んでしまった。

「ミチエーリ、何を！」

「黙れ、クソ眼鏡。助手が私の邪魔をするな！」

今の僕の立場は依頼人であり、助手だ。
だから、見守ることしか出来ない。
僕には、ただ一歩離れた位置から、触れることも出来ずに、見ていることしか出来ないのだ。
小さく、息を、飲み込んだ。


それからはあっという間の出来事だった。
ミチエーリが行う呪術的な儀式を呆と眺めていれば、急かすように声がする。

「桶だ！ 桶を持ってこい！ 急げ！」

部屋の隅に用意してあった桶を、指示通りにベッドの脇に設置する。
吐瀉音と共に、臓物のようなものがべとりと吐き出される。
これが、毒か。
握りつぶしてやろうかとも思ったが、実行に移す前にそれは鼻を突くような刺激臭と鉄の匂いに塗れた。

「……たぶん、上手くいったと思う。私も実際に行うのははじめてだからまだわからんがな。とりあえず、温い湯でも持ってきてやれ。落ち着くだろう」

グリゴリの荒い吐息に混じるように告げられる、ミチエーリの言葉。
小さく頷いて、ミチエーリの事はクリスへと任せ部屋を出る。


人肌ほどに温めた湯を持って部屋に戻れば、もう二人の姿はなく、グリゴリだけがベッドに伏していた。
その隣へと寄り添い、床に膝を付き、コップをグリゴリの唇へと近づける。
縁を触れさせ、器を微かに傾ければ少量の湯が口内へと注がれる。
喉が音を鳴らすのを確認して、同じ動作を繰り返す。
器を満たす水量が半分ほど減ったところで小さく息を吐き、コップを床に置いた。
部屋の中、グリゴリと二人きり。
ようやく落ち着いたのだろうか、穏やかな鼓動を感じる。
生者の熱を持った吐息を漏らす唇を、指先で、なぞるように拭ってあげた。

まっすぐなひとみでおねえさんをみつめかえしました。

うーんとよくかんがえて、ハッとしたかおになり

あわてたようすでちからいっぱいこばみました。

ふいによこをむいて、

ことばをとぎって、じいっとおねえさんたちをみつめました。

みるまに顔が赤くなった。