元服…成人のお祝いだね…をする為に京からの迎えがやってきて、ツナちゃんは一度大江山を離れることになった。

　何度も何度もしつこい話だが「我が世をばこの世とぞ思う望月の欠けたることも無しと思えば」のちょっと前の時代。
　藤原氏が京都で栄華を極めていた話は前にもしたと思う。

　まぁ、でもそれ以外の人間にとっていい世の中だったかどうかとはまた別のお話で、藤原氏が我が世の春を謳歌している中心部から離れるにつれ、どんどんと街は荒涼とした雰囲気に姿を変え、ここ、羅城門のあたりまで来ると、仕事を求めて都へやってきたもののままならず、かと言って郷里にも帰れず、物乞いや追剥に身をやつした連中のたまり場と化していた。

　迎えに寄越された牛車の窓からは、そんな光景が見える。
　こんなところで吹きだまっているくらいなら江山にでも行けばいいのにね……なんて無責任な事を思いながら、特にそんな連中から襲撃を受けるでもなく（護衛もたくさんいたし、襲い掛かってきたところで返り討ちだし、そんな無謀な狼藉を働く元気のある連中はいないよね）、牛車は一路都の中心部へ。



　元服のお祝いは盛大だった。
　武家にとって元服の祝いというのは大切な事だというのは知っていたし、兄達の元服祝いも見てきたから、だいたいどんなものかは知っていたのだけれど、ツナちゃんの元服祝いはそれよりももっとずっと盛大だった。
　家督を継ぐ役目をもった長兄のそれより盛大なのはなんでだろう？　
　まぁ、子供だったツナちゃんでも、そんな違和感を感じ取れるぐらいにとてつもなく盛大な元服のお祝い。
　勿論顔は見たことが無かったけど、衣装や冠から位の高さのわかる文官や、歴戦の武家たちが勢揃いで、屋敷は人でごった返していた。



　さて、何故ツナちゃんの元服祝いがそんなに盛大だったのか？

　元服祝いの夜、屋敷の一番奥の間に呼ばれて行ってみると、そこには左大臣、式部長長官といったやはり錚々たる面々。
　そして、何故かそんな歴々よりは大分身分が低い筈のいかにも武人然とした男が、身分の高い人を差し置いて高座に座っている。
　武人然とした男はその場の重苦しい雰囲気に似つかわしくない柔和な笑顔でツナちゃんに微笑みかけた。

「はじめまして、私は源頼光。今日は君にお願いがあって来ました」

　「命令」ではなくお願い？　

「君には私の配下に加わり、朱天童子殿を討つお手伝いをしていただきたいと思っています」

　！？

　突然の言葉に一瞬頭の中が真っ白になる。
　お館様を……討つ？　
　

なお実際には火加減を間違えて消し炭にしたレフィリスであった

動きを止めていたウィルが、静かに口を開く。
すでにその身体には傷ひとつ無く。

ふう、と溜息をつき、胴体を起こす。
ソルトに正面から、顔を向けた。