《六通目の手紙》


この世界にきてから、もう、ずいぶんたくさんの時間が過ぎました。

お母さまにもお伝した、わたしが巣を出て外の世界を旅したいと思った理由。
その目的は、いまだに達成できていません。

予想はしていたはずなのに、現実に、たくさんの人たちと、それを飲み込む大きな世界の波を前にしていると、
自分がその中で何かをできると思っていたのは、大きなまちがいだったのではないかと、そう思ってしまうのです。

・・・いえ、ごめんなさい。
本当はわかってます。

そんな大仰な言葉を重ねるほどのことではないのです。
ただ、人付き合いというものが、わたしはいまだにうまくできなくて。

だから、人と交遊を得る機会というものがあまり生まれなくて。
あまり知り合いも多くないので、出会いの機会（文章で見るだけでもひどく遠いもののように思えます）がないのです。

近日に【さまーばけーしょん】というイベントがあるようです。

みなさんは、水着に着替えて海で遊んだり、屋台というものでお祭りを楽しむのだと聞きました。

そうした催しに興味がないといえば、嘘になります。
わたしが愛読している本にある、恋愛の物語の中でも、こうしたしちゅえーしょんはとてもいいものとして書かれていました。

ですが、相手とかいません。

まだこの世界にきて、そんなに経ってないですし。
ちょっとしか経ってないですし。


・・・・・・。


べつに、いいのですけれど。

みんなでワイワイ騒いでいる人ごみとかを見ていると、やっぱり少し寂しいです。

やはり、突然に過ぎたのだろうと思う。
わたしの要望を耳にすると、にあみさまは素っ頓狂な声を上げて驚いた顔を見せた。


にあみさまは、わたしのあまり多くはない知人の一人だ。
この世界の人間であり、少なくとも肉体的には、大きな特異を持たないような、一般的な人間（だと思う）。

それでも、戦闘技術はわたしよりもずっと優れていて、一人きりで、この一揆に参加している。
一人での参加をそうそうに諦めて、仲間を募ってしまったわたしには、羨ましいぐらいの強さの持ち主だ。


今日は、彼女といつものように人気の多い場所で待ち合わせて、お話をしていたのである。

わたしが“海にいきたい”と思ったのは、言ってしまえば、単なる思いつきだった。
どうしてそんなことを思いついたのか、それを説明することはできる。

お世話になっている宿で見た、一枚のチラシがそれである。


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[SummerVacation]
　昼は浜辺や森林浴。夜は屋台に花火。
　海とか花火とか水着とか浴衣とか、なんか夏ぽい感じでヒャッホイしましょう。

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そんな、とても曖昧な、“楽しいこと”が書かれていたチラシ。
それがわたしが、海に行こうと思ってみた理由。

“ヒャッホイ”の意味は分からないけれど、一揆から離れて遊ぶ、そういう行動に興味があった。

にあみさまは、きょとんとした顔で、ぱちぱちと目を瞬かせる。

彼女は、普段はいつも一人きりでいるという。
こういう催しの情報を聞く機会も、多くはないのだろう。

わたし自身も、こういった催しが好きらしい宿の管理人さんがチラシをばらまいたりしなければ
【さまーばけーしょん】のことなんて知ることもなく過ごしていたと思うので、ひとのことは言えないけれど。

感心した様子の、にあみさまさんを見て、少しほっとする。

にあみさまは、この世界の住人だから、一揆という大事に遊んでいることをよく思わないかもしれないと、少し心配だった。
彼女の人柄は分かっていたから、たぶん大丈夫だと思っていたけれど、なにもかも知っているわけじゃないから。

この世界のみんなが、余裕をなくしてしまうくらい、みんな戦いのことしか考えてないということは、ないと思う。
それでも、外の世界から来ている、わたしのような存在を、良くない目で見ている人はいるだろう。

わたしは、知らない人の意見には興味がないけれど、知っている人にイヤな目で見られるのは、すこし悲しい。

わたしの説明に納得すると、にあみさまはすぐにわたしの願いを了承してくれた。



・・・実のところ、にあみさまには、一つだけ、言わなかったことがある。

わたしは、住居であるタンポポ荘への移動のときに、この近くに海があるのを見て、知っていた。
だから、にあみさまにムリに案内してもらわなくても、一人でだって辿りつける。

でも、一人で海に行くのは、なんだかさびしい。


だから、つい、いっしょにきてほしくて、案内をお願いしてしまったのだ。











ザブンザブンと、水がうねって岩辺にぶつかり、飛沫をあげる。

足先をその中に浸すと、海は思ったよりも冷たくなかった。
摘み上げたスカートの下で、晒した肌を焼く陽の暑さとのせいか、むしろ心地よく感じられる。

ただ、つよすぎる潮の匂いは少し苦手に思う。
ほんのすこしなまぐさい、なまぬるい匂いは、まるで肌にまで、染みついてくるようだった。



にあみさまが案内してくれたのは、あまり人気のない、岩場の海岸だった。

海水に濡れた大小の岩に、海から押し寄せる波がぶつかり、白い飛沫をあげる光景は、とても不思議なものに思えた。
知識としては、こうして海から押し寄せる波がどういうものか、どうしてできるのかをわたしは知っている。

けれど、岩場にぶつかり、波同士でぶつかり、うねり。
生き物のように動き続ける波は、わたしが知識で知っているものよりも、ずっと興味深い。

ずっと波間の飛沫がはじけるのを見ていたから、ぼーっとしているように見えたのだろう。
にあみさまが、大きめの岩の上から、控えめな声で注意してくれた。

にあみさまは、にっこりと目を細めた笑みを浮かべると、自分のことのように嬉しそうに笑う。

彼女は、海から少し距離をとっているようだった。
手にした鉄製の手甲が潮にさらされるのが、イヤなのかも知れない。
もともと、この世界で生まれたにあみさまには、海にふれる機会なんて嬉しいことでもないだろうし。

けれど、海に触れる楽しさに、すこし興奮していたわたしは、浮かんだ言葉をそのまま口にせずにはいられなかった。

わたしが誘うと、にあみさまは驚いた顔をした後、顔を伏せる。
少し、何か考えているように口をつぐんで。

その仕草だけで、次に出てくる言葉はわかったから、わたしには、自分が口にした言葉を反省する時間が十分にあった。

にあみさまが、わたしの誘いを断るために、謝罪の言葉を考えている。
それを聞くことになる前に、わたしはすぐに口を開いた。

にあみさまは、ちょっと困ったような顔で微笑んだ。
ちょっと気を遣わせてしまったと思う。

フォローをしたつもりだったけれど、やっぱりあまり上手くできなかった。
こういう時にうまくできないのは、わたしに、人付き合いの経験があまりないからだろう。
もっと口の回る人、機転のきく人なら、今のとき、どんな風に言っただろうか？

わたしは、そんなことを考えているうちに、つい、黙り込んで、うつむいたままでいた。

突然、にあみさまが、びっくりするぐらい大きな声を上げた。

なにごとかと、指さされた場所を見てみる。
岩場にたまった海水の中に、赤黒くてまん丸な、イボのような突起のついたプニプニした生き物がいっぴき。

ひっくり返されたナマコは、ゆっくりじわじわと元に戻ろうとムニュムニュ動いている。

にあみさまと並んで、その光景をじっと見守りながら、わたしは考えた。
もしかしたら、にあみさまも、わたしと同じで、あんまり人付き合いの経験があまりないんじゃないだろうか。

だとしたら、わたしを思ってフォローしてくれたにあみさまに、感謝しないといけないだろう。
せっかく話題を提供してくれたのだから、ちゃんとのるのが会話のマナー。

そんな気持ちでじっとナマコを見つめていると、ナマコはぐるんと大きく動いて元に戻る。
じわじわと迷惑そうに、潮溜まりの奥に逃げようとしているのを見ているうちに、なんとなくうずうずとするものを感じた。


せっかくなので、と。
わたしも、ナマコをつかまえて、もう一度ひっくり返してみる。


そうして、じわじわと元に戻ろうとしているナマコを、にあみさまと一緒に見下ろしながら、
どうにかフォローの埋め合わせをするために、なにか楽しい話題を探そうと、わたしは必死に考えをめぐらせるのだった。

ぴくぴくと耳を動かしながら、一匹の妖怪がふらふらとあなたの前に現れた。

2人へにこやかに挨拶をした後、
アムルに鎧の賊に関するその後の進展を聞かれると残念そうな表情で首を振る。

その後、ノノの言葉に頷いたりアムルの言葉に内心で同意しながら苦笑したりしながら
改めてアムルからの了承の言葉を待つ。

『油断すると、お風呂までカレーにされますから。』

そうして、至極真面目な……真剣な表情で警告をするアムルに
「肝に銘じておくわ」と、これまた真剣な表情で返すと、籠に連れてノノと行く。


***？？？***

不穏な空気もどこへやら。
優しくかけられた布にすやすやと眠るノノに毒気を抜かれたのか実に優しそうな笑顔を見せる。

小さく、そう呟いて布の上から撫でると郊外へと歩いていく。


どれくらい寝ていて、どれくらい歩いていたのだろうか。
ノノが気づいた時にはそこそこ施設の整った厨房へ連れられていた。
そのまま見渡していれば厨房の隅でなにやらぶつぶつと呟いているリレッタが見えた。

気づいた時にはリレッタは呟くのを止め、また動き出す。
慣れた手つきで器具を取り出し材料を取り出して並べていく様子から
長い間ここで彼女が働いている事がわかるだろう。

一通りの準備が終わったのか、残りはそれぞれ切り、下ごしらえをして入れ始めて
段階でノノが起きている事に気づいたのかそちらを向いて笑顔を見せる。

そういって、大鍋の蓋を開ける。
カレーの妖精として何か手伝うべきか、此処は彼女に任せてしまうべきだろうか。

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フードを取ったアムルさんの額の目を見る

ロロムが持つランタンがにぶく輝くと、中に潜んでいたエンブリオが姿を現します。

頭にはアリのような触覚と王冠、体にはハチのような羽とドレス。
「ちょうどメル友探してましたし〜」などとテレパシるには、不釣合いな姿をしています。

少年の右目もまた、ヒトにあらざるものの目だ。
その言葉を語った少年は、どこか寂しそうな表情をしていた。

何言ってんだろうね。と苦笑しながら、自分の頬を触手でぺしぺしと叩きます。

　ストレートに褒められて少し照れくさそうにするが、はっと気付き自分を律する

　　そう言いながら膝を曲げて腰を落とし、両腕を前に突き出した姿勢を見せる

　　…小嵐の美しい站樁に「あれ？これ簡単に出来るんじゃね？」と錯覚しがちだが
　　実はものすごく姿勢維持が辛いのであった
　　…初っ端から10分とかやらせる時点でかなり鬼畜な師範代であった（ぇ

　　あなたは少女の以前と違う雰囲気に、違和感を感じるかもしれない
　　刺のような張り詰めた空気は和らいだが、別種の冷たさを新たに感じさせる

　　口調まで変わっているようだ…しかしその反応から
　　別人では無いという事はわかるかもしれない

　　純粋な質問を投げかけてきた
　　あなたのその態度から、高い目的意識…というのだろうか
　　何だか無理をしてでも話そうとする部分が感じられたのかもしれない

アムルさんに拒絶されることがなければ、頭の上に手をのせて、なでました。

アムルさんの問いかけにきょと、とした表情を見せました。

容姿のせいか前衛で戦っているとは考えていなかったらしく、驚いたような声をあげる

説明しながら真横に並ぶように立つ

思い出したように会話を続ける

「つまらない」と言いつつも、とても真剣な表情で言葉を続ける

　
　　　　　　自然な手つきで水の入った杯を受け取って、飲み干した。
　　　　　　 口を付けた箇所を、手拭いで拭って返す。
　　　　　　 それから暫し、話に耳を傾け。　

　
　　　　　　受け答えに満足そうに頷くと、胸に手を当てて答える。
　　　　　　 アルムの種族云々についての話にも、動じた様子も見られず納得したようだ。　

　
　　　　　　すっと、静かにほほ笑んだ。　

立ち去ろうとする姿に声を掛け、呼び止めようとします。

今度は柔らかな笑顔のままじっとアムルの姿を見つめています。

訝しげな表情。

撫でられ、手を後ろに組んで照れくさそうな動きをみせるクマちゃん。

やれやれ、といった様子で苦笑いしつつ返すように自己紹介。

急に飛び退かれて一瞬驚いたように目を見開くが、すぐにいつもの緩んだ表情に戻り

払われた手をパキ、と鳴らすとわたわたする貴女を可笑しそうに見つめる。

まだどこか誠実さには欠けるものの、少なからず申し訳ないとは思っているようだ。