『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの料理〜』



　とある世界、日付不明、とある部屋にて——

　ぽちの一言が始まりだった。
「人間って特別な日は大切な人にチョコレートというお菓子を
贈るんだってね。三日後が丁度、その特別な日だね。ボク達も
マスターにチョコってお菓子を贈ってみる？」

　マスターにチョコという食べ物を贈ってみよう。
　僅かでもこの現状を抜け出す機会があるのならば、それに賭けたい。
心を込めた手作りチョコを贈ろう。

「手作り料理か。知識としてはあるけどね。ボクに料理は出来ないから。
ツルギがチョコを作ってね。ボクはレシピと指示を出すよ。
あ、ボク、記録の整理で別室に居るから」
　ぽちの指示通りに作れば、俺一人でも何とかなるだろう。


　調理場に立つ。材料はぽちの指示通りに揃っている。
問題はない。
　大きく息を吸い込んで深呼吸。よし、いける。
「でやぁっ！」
　俺は市販のチョコを放り投げ、熱を帯びたサーベルを抜いた。

　焦げ茶色の破片が調理場に散乱している。天井にも飛んだようだ。
調理場を照らすライトが黒くなっている。
「微塵切りのつもりだが、これでいいんだよなぁ？」
　散乱したチョコを銀色の容器に集めていると、背後でくすくすと
笑う声がした。
　目立つ色だった。桃色の長い髪の、白を基調とした戦闘用スーツ姿の
少女が笑っていた。
　少女はアースの人間のようで人間ではなかった。その耳は尖っていた。
様々な惑星の種族が集う場所だ。アースの人間以外が居てもおかしくない。
　少女と目が合った。
「お兄ちゃん、料理がしたいの？　ボクが教えてあげようか？」

　レアと名乗った少女は俺に調理器具の使い方、料理の仕方を教えてくれた。
彼女も料理のためにここへ来たと言う。彼女も特別な日かと聞くと、
頬を染めて、小さく頷いた。
「ボクは大好きなお兄ちゃんに手作りのチョコをあげるんだ。
お兄ちゃんも誰か好きな人にあげるの？」
「俺は好きな人ではなくて、仲直りしたい人かな。今、凄く険悪な……
良い関係ではないんだよね。その人と仲直りしたくてね」
「そうなんだ。何があったか知らないけど、仲良くなれるよう、
心を込めて美味しいチョコを作ろうね。きっと仲良くなれるよ」
「あぁ、そうなるといいな」


　期待していなかったが、矢張りマスターの態度は素っ気なかった。
　しかし、手作りチョコの味は美味しかったらしく、小箱は空になった。
「……有り難う」
　去り際に、小さく聞こえた。

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