ENo.896 ミリア・イグ・ルヲズ

《63.5， 2.227， -212 ， 0.51， 0.73， 2279》
第7地界…通称結印世界

イ｢はしょった部分を補完しておこうか。｣

第7層に下りた一行は、この階層がほかと比べて5 ℃位温度が違っていることに気づく。
ヴェルの感知術により目的のプレートを見つけるが、その手前に強敵を観た。

道を進んでいくにつれ、温度がさらに上昇する。
強敵がいる部屋に着く頃には、温度がさらに35 ℃位上昇し、
シェルの放熱加速などによる恒常性支援術無しでは普通に立ってもいられなかったろう。
部屋の中にいたのは赤熱した鉄の塊のような大きな鱗を全身に纏った竜の一種、
赤鋼竜であった。

カイたちに問う。
｢どうする？今の戦力では相手を倒すことはできなさそうだが。｣
｢どうしてそう思う？｣
｢相手は赤鋼竜、準一級程度の実力がないと相対するのは無謀であるとされる上位種の一つ。
加えてこの通り炎熱特性が非常に高く、かなり高練度の氷結術式が使えるのでなければ、
弱点であるはずの氷結術も通りにくい。リティスの雷撃は
この高熱で捻じ曲げられて揮散し、有効打となりえない。
ほかの者でもあの鱗を突破できるような力は持ち合わせていないしな。｣
｢じゃあどうするんだ？プレートはあの先にあるんだろう？｣
｢ああ、”普段ならば”上手く赤鋼竜の注意をひきつけ、
奥に繋がる道を空け、その道を伝ってプレートをとってくるのがセオリー…｣
｢なら、そうすれば｣
｢だが、それは無理だろう。いま、あの赤鋼竜が卵を抱えているために…な。｣
｢卵を守るために、そして孵化を促進させるために普段以上の熱を放ち続け、
あの場所からは離れることはないだろう。そして、何よりいつもよりも縄張り意識も強くなり、
攻撃性も増している状態であるため、カイであっても耐え切ることはできない。
この状態では一級程度の実力があっても抑えることができれば上々なレベルだからな。｣
｢ならこの試験をあきらめろということなのか？｣

｢いや、正攻法では無理だということだ。｣
｢ではどうするんだ？｣
｢自分とシェルの複合術式で上手く相手の攻撃をかわしながら進んで、プレートをとってくる。｣
｢大丈夫なのか？｣
｢今まで君らにがんばってもらった分、自分たちは力の温存ができた。
今度は自分たちが負担する番だというだけ、問題ないさ。
勝算が無ければ、こんなことは言わない。シェル、どれくらい持ちそうだ？｣
｢最低一分は持つだろう。いけるか？｣
｢上等、じゃあ、いこうか。｣

まず初めにシェルはヴェルに最高速度、最高加速度、変向加速の平滑化を向上させる
”アクセル・ブースト”をかける。

彼我の距離 30 m (プレートまでの距離 42 m)

ヴェルの一歩目
踏み出すと共に不規則歩法”ランダムステップ”を自分にかける。

29.2 m　二歩目

徐動をつけさらに広く飛ぶ。
赤鋼竜が牽制に炎弾を吐く。

28 m　三歩目

右前方に変向し、避ける。

27 m　四歩目

炎弾を、火線を、吐息を
進行方向を変向し、避けながら進む。

12.6 m　十五歩目

近づくにつれ、激しくなり、周囲の気温も自然と高くなる。
火線がヴェルを貫く軌道を取る。
避けきれないと思ったヴェルは
”シャドウステップ”
足音を触媒に退避術式を編み、避ける。
その後、再び進み始める。

6.3 m　十八歩目

さらに接近すると爪、牙といった攻撃が主体となる。

3 m　十九歩目

振るわれる腕に捕らえられたと思うと、
腕の上で二十歩目を踏む。

-0.5 m　二十一歩目

耐熱術を靴の裏に張り、背中の棘に乗り、さらに跳ぶ。

-3 m　二十二歩目

ヴェルは上空に向けて振るわれた尻尾に打たれた
…ように見えたが、上手く尻尾に乗った上で、その勢いを加算して広く跳ぶ。

-10.8 m　二十三歩目

着地と共に方向転換し、ボードに向かう。

-12 m　二十四歩目

ボートにかかっているプレートを一つとったヴェルは急ぎ戻ろうとする。

-4.5 m　三十二歩目

徐々に距離をとりながら脱出を図る。

1 m　三十七歩目

赤鋼竜の側方を超え、視界に入ったヴェルに再び炎弾や爪撃を打ち込み始める。

3 m　四十歩目

揺らしふらりとかわしつつタイミングを計っていたヴェルに横薙ぎの爪撃が襲い掛かる。
が、その威力を利用し跳ぶことで、大幅に距離を稼いだ。

30 m　四十三歩目

そのままもとの位置に戻ると、
一行全員で…逃げ出した。

部屋から出ると警戒範囲外に出たのか追ってこなくなった。

金色のプレートをとり、安全圏に脱することのできた一行は、
そのまま第八層に下りると奥を目指す。

第八層は一本道ではあったが、要所要所に氷結属性以外の全ての攻撃に耐性を持つ
厄介な暗黒スライムが待ち受けていた。

…が、氷結斬撃を放つことのできるアイゼノと氷結術を使用できるヴェル
の二人を擁する一行の敵ではなかった。
前列にアイゼノを配置し、後列にヴェルを配置することで堅実に進み、
銀色のプレートを手に入れた一行は引き返す。

第五層まで引き返してきて、プレートのある部屋にたどり着いた一行の前に、
5人のリザードマンが立ちふさがる。

片手剣を2本持つ者(A)と、大斧を持つもの(B)が前に弓持ち(C)が真ん中にいて
後ろに杖持ちが2人(D，E)であった。

真っ先に向かってきたA，Bをそれぞれカイとアイゼノが迎え撃ち、
今にも狙おうと構えていたCの手元を狙い、ヴェルが針を打ち込む。

D，Eとリティスは詠唱を始め、シェルは詠唱を終える。
”バインド”

カイを防戦一方にしていたAの両腕を拘束し、一時的に動けなくすると、
カイの斧槍が下から振りぬかれ、顎がかち割られる。
浮いたAの体をカイはさらに楯で殴りつけ、後列まではじく。

”ヴェノム”
ヴェルは針に猛毒を仕込み、取り落とした弓を取ろうとしているCに打ち込む。
放たれた4本の針はCの左の眼球、首筋、左肘に打ち込まれ、
先ほどよりもすさまじい痛みにのた打ち回る。

残り一本は狙いを外れ、Dの杖に打ち込まれる。集中を乱されたDは術式を一旦中止に追い込まれる。

吹き飛ばされてきたAがDの腹に突っ込む。

周りを見回したDはとてつもなく劣勢であることを思い知らされる。

Dは一縷の望みをかけてEに呪唱加速をかけるために詠唱を始める。

シェルは一人難を逃れているEに向かい駆ける。

カイはA，Dを追撃するべく突進する。

ヴェルはCに止めといわんばかりに無数の針をCに刺すと全ての針を無理やり水平方向に動かし、
Cを引き裂くことで事切れさせる。

アイゼノの大鉈とBの大斧は何度も打ち合わされ、両者共に疲弊していく。

｢退いて。｣
リティスの鋭い声が響く。

Eに向かっていたシェルとBと打ち合っていたアイゼノは咄嗟に退き、

リティスに術式の軌道を空ける。
｢灼き尽くせ”雷華砲弐式”灼閃””｣

シェルは咄嗟に”ブラインド”を一行にかけ、次に備える。

…が、次の瞬間カイがA，Dをひき潰したことで全てのリザードマンが戦闘不能となった。

黒色のプレートを回収してさらに上の階層を目指す。