ENo.1868 エイリア＝エイシス

白魚のような手が、それと同じほどに真っ白なコートの上を滑る。
ゆっくりと、一つ一つ。上から順にボタンを外していく。

その動きには当然ながら恥じらい等感じられないが、しなやかな指が細やかに動く様は
ある種のフェティシズムに通ずるものはあるのかもしれない。

コートの下に隠れていた剣は地面に置かれた荷物の傍らに。
コートそのものは垂直に突き刺された長槍の柄に引っ掛けるように。

次に手をかけたのは、剣と同じく普段はコートの下に隠れた少し厚手の長袖。
飾り気のない、実用性重視のそれを、長い髪をたくし上げながらするりと脱ぐ。
ぱちぱちと静電気が走る。思わず眉を歪めたそれも、時節柄のご愛嬌。

服を脱ぎ終え、思い出したように長いニーソックスに手が伸びた。
岩場、というよりも岩そのものに腰掛け、冗談交じりに足を持ち上げながら脱ぐと、
少女然とした小枝のような素足が露わになる。
そのまま少し腰を浮かせる。短いズボンもするりと美脚から抜け出した。

脱いだ衣服を申し訳程度に畳み、荷物の上へとぞんざいに投げ置く。
簡素な下着姿のまま、荷物を漁って手ぬぐいを取り出す。
顔を近づけ、一嗅ぎ。安心したように頷くと手ぬぐいを岩へと一先ず置いた。
まずは上半身。そして最後の一枚も、荷物の上へと放り投げられた。

少女の右の人差し指が前へ突き出すように伸ばした左手をすべり、肩へ、鎖骨へ。
首を通り、顎をなぞる。再び首から、下へと流れ落ちる指。
その課程、臍にたどり着くまでに、少しばかり苦笑した。
我ながら貧相だけど玉のようなお肌だね、などと笑いながら呟くが、まさしくそれは事実であった。
その裸体には傷一つなく、陶磁器のような肌とはこの事。
長い空色の髪と合いまったその姿。見るものがいたとして誰が冒険者と思おうか。

長い髪を持ち上げるように結い上げ、手ぬぐいを拾い上げると、岩場の向こうへ歩を進める。
すると、多くの岩がまるで一角を形成するようにまあるく並んでいた。そこから立ち上る煙、否、湯気。
まずは指先で確かめるように触れる。しばし弄くる様に指を動かす。ちゃぷちゃぷと響く水音。
それを終えると、大きく一歩。
広がる波紋。しなやかと呼ぶには少々細すぎる足首から、溶け込むようにその身は暖かな水面へと沈んでいった。