ENo.89 鎌瀬犬介

十五夜お月様

〜〜エスタの街〜〜

再びエスタの街に戻ってきた。
今後の探索について話し合う。

鎌瀬犬「……やはり方角的に竈馬が妥当か？」

防人「エスタから一番近いしそれでいいんじゃないか？」

百舌子「ねぇねぇ、かまどうまってなあに？おいしいの？」

防人「竈馬は……、なんだっけ？」

鎌瀬犬「……確か昆虫の一種だったと思うが」

百舌子「虫は……あまり食べたくないなぁ……」

まつり「カマドウマは焼いてから七味をかけるとなかなかの味になるっしょ」

鎌瀬犬「……」

まつり「バレンタインだったからチョコ贈るっしょ」

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そういって渡されたのは妙に細長く、白いチョコだった。
ホワイトチョコ……なのか？
そして、最も奇妙なのは、このチョコと呼んで良いか分からないものがクネクネと動いていることだった。

鎌瀬犬「……おい、このチョコ――」

まつり「理解してはいけないっしょ」

鎌瀬犬「……」

果たしてこのチョコは食べても大丈夫なのだろうか？

レイナ「……ああ、ちょうど良い機会です。私もチョコレート作製に挑戦してみましたのでよろしければどうぞ」

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目の前にドン！と置かれたのはタマネギ一個にありったけのチョコレートを垂らしただけのもの。

鎌瀬犬「……これはチョコレートなのか？」

レイナ「当然チョコレートです。せっかく私が差し上げたんですから、この好意を無駄にするなんてことはないですよね？」

……おそらくコイツは犬にタマネギを与えるとどうなるか知っていての行いだろう。

鎌瀬犬「……防人」

防人「いやあ、よかったなー。二つもチョコを貰えるなんて(棒読み)」

鎌瀬犬「……羨ましいならお前に譲ってやろう」

防人「断固拒否する」

コイツは一人で安全地帯に逃げ込むようだ。

鎌瀬犬「……百舌子はどうだ？」

百舌子「うーん……、なんかそれ、食べちゃいけない気がする」

どうやら百舌子の野性的感覚も危険反応を起こしているようだ。

レイナ「……さぁ、早く今この場で食べて下さい」

鎌瀬犬「……」

落ち着け、今は犬の姿をしているが、俺は人間だ。
タマネギを食べても問題はないはずだ。
……人面犬の場合はどうなるのだろうか。

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　　.＼　　　　　＜=＞　　／　　＜　　早く食えよ
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鎌瀬犬「……」

俺は人間だ。タマネギを恐れる理由がない。

自分にそう言い聞かせ、意を決してタマネギ（チョコレート）を囓ってみる。

味は至ってシンプル、タマネギの辛さとチョコレートの甘さがミスマッチングしていて、実に不味い。

鎌瀬犬「……」

レイナ「……」

レイナが眼を輝かせている。俺の身体に異常が発生するのを期待しているようだ。

鎌瀬犬「……正直に言おう、不味い。そして身体に何も異常は起きていない。」

レイナ「……チッ」

まさか舌打ちされるとは……。

実際のところ、少し頭痛が起きたが、それが犬とタマネギの関係の所為なのか、単純に不味さの所為なのかわからん。

タマネギは何とかなったが、残る問題はまつりのチョコレートだ。

鎌瀬犬「……」

これだけは何があっても食べてはいけない気がする。

鎌瀬犬「……」

まつり「とっとと食べるっしょ」

躊躇っているところに、まつりが急かしてくる。

鎌瀬犬「……後でゆっくり食べさせてもらう」

まつり「しょっせい！」

鎌瀬犬「モガッ！！」

まつりが不意に俺の口にチョコレートをねじ込んできた。

鎌瀬犬「……ングッ！」

不意打ちのため、チョコレートを飲み込んでしまった。

まつり「うまかったっしょ？」

鎌瀬犬「わカらナいホうガいイ……」

鎌瀬犬「ウヒ、ウェヒヒヒヒヒヒヒヒ……」

〜〜〜〜〜〜

鎌瀬犬「……夢か」