ENo.44 黒鷺天地

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〜ブロッサム編・第五章〜
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有野市内の中心に建つ有野市のシンボルにして名スポット、有野タワー。
高さ634mのこの電波塔は有野市の活性化の為に三年前に作られ、オープン当時は大勢の客が有野タワーを求めて有野市に訪れた。その時の話題は各メディアにも取り上げられ、以降もこの街の年内に訪れる人も有野タワーのなかった頃よりも大きく増えている。
そんな有野タワー周辺上空に突然と異次元の穴が開き、その穴からは新たな獣達が降下していく。上半身は甲羅に包まれた人型、下半身は昆虫と蟹を混ぜたような八本の足。背中には蝙蝠のような翼。身体はざっと3メートル程度の高さがあるだろう。
これまでの異型の獣と異なり、さらに複数の種類の種族の特徴が混ざった異型の獣。降下するそれは、有野タワー前のバス停へ。
大勢の人達が非難する中、警察の特殊部隊が獣へと立ち向かうもあっさりと足蹴りにされる。大きな足が直撃した時の身体にかかる衝撃は大きく、大型盾を使って防御してもその衝撃の大きさから身体は大きく押されていく。
異型の獣の破壊の意思は、狙いをじっくりと周囲を見て物色をする。そしてその狙いの先は…、有野タワーだ。
タワーに様々な対策が施されているとはいえ異型の獣の攻撃を受ければそれ相当の被害は免れず、何度ももらえばもらうほど危険も大きい。最悪の場合はとても考えたくない大惨事が現実となる可能性もある。

「……！？」

突然と獣に目掛けて放たれた複数の黒い矢…、いくつかの矢は甲羅に防がれるも翼だけは大きく貫いた。翼はその場に転がり落ちては黒い炎に燃えていく。
獣から離れたその先にはディオスクーロイを構えたユフィがいる。彼女が遠距離から獣へと攻撃を仕掛けていたのだ。
既に次の矢を放とうと狙いを定めている。狙いは…、甲羅に包まれていない部位や間接。護られていない部分であれば攻撃が通る場所へと正確に狙いを定めていた。

「KURURURURURURURRU……！」
「次は他のところも狙わせてもらいますよっ！」

再びユフィは獣へと狙いを定めて黒き光の矢を放つ。放たれた矢は素早く飛び、残りの距離が半分まで迫れば一本から分裂して複数の矢になり、獣へと迫るそれらの矢は着々とその距離を縮めていった。
獣は口から魔力の弾を放ち、目の前に迫る矢を次々と相殺していくも、そのうち矢の一本だけは落とせずに矢は獣の足の関節を掠めた。まだ身体が繋がってる状態が維持されているため、傷口はすぐに回復をしていく。

「SHAAAAAAAAAAAAAA！」

獣はユフィに狙いを定め、さらに魔力の弾を次々と放ち続ける。遠距離からユフィへと放たれた魔力の弾はブレることなくまっすぐに放たれるも、放たれてすぐに移動することで容易に回避している。連射間隔も短くはなく、発射する時の口の動きや口内から見えた光からも相手の弾が来ることは十分に把握出来るため、回避もそう難しくはなかった。

「お前の相手は他にもいるよっ！」

敵がすっかりユフィに狙いを集中している間、俺は気づいていないうちに素早く獣へと接近して距離を詰めていく。相手はまだこちらに気づいていないため、順調に距離が縮んでいく。これまでの獣と違う特徴はあっても、やはり狙った対象ばかり狙っていくあたりはこれまで戦ってきた獣と変わりない。
ある程度の距離を詰めたところで、俺は大きく飛び上がる。ゲッコウブレードに大量のタキオンを込めれば、刃は激しく蒼の光を発している。
狙うは相手の首元…、甲羅に護られていない僅かな隙間。首を落とせば嫌でも相手は機能停止することになる。
ここを狙うにはすべりなしで針穴に糸を正確に通すような細かい慎重さが強いられる…、少しでもずれれば甲羅にぶつかってしまうのだ。それほどに首を狙うに行くのは難しいものだが、ここはこの一撃で確実に仕留めにいきたい。

「せいやあああああっ！」

俺は獣の首元の僅かな隙間を狙い、ゲッコウブレードを大きく振るった。刃は僅かな隙間に見事に入り、獣の首を確実に捕らえた。
刃はすぅっと獣の首を斬り進め、首から下の胴体との繋がりを引き離した。獣の首が飛べば、胴体はその場でビクッと静止し、そのままゆっくりと崩れ落ちていく。

「ふぅ……複合型かぁ……、久しぶりに見た気がするけどそれにしては種類が増えているかな。甲殻類に昆虫類に哺乳類…、甲虫類までならまだいいけど哺乳類はミスマッチじゃないかい？まぁ…ともあれこうして新たなタイプの獣が出てきたんだ…、これからのことを考えると少し心配ではあるかな……」
「この先もこれ以上の物が出てくることを考えると…どうにかセルフォリーフの何処かにある異次元の穴も見つけないといけませんね……」

今回は比較的攻略はまだ出来る範囲ではあった。しかし次にまた別の複合型が出てくれば、対処にも苦労させられることだろう。
最近の異型の獣の強さも、セルフォリーフの獣の強さが増すにつれてより磨きがかっている。元々この異型の獣はセルフォリーフで突然変異を起こした獣である。それがさらに異次元の穴を通過することで急速な成長や更なる突然変異を起こし、異型の獣へと姿を変えている。
こうして異型の獣が姿を見せているのも俺達の世界だけじゃない…、セルフォリーフの変化は他の世界にも様々な影響を与えている。セルフォリーフの危機が他の世界にも影響を与えているのだ…、嫌でも信じざるを得ないだろう。
少しでも別の世界にセルフォリーフの獣が漏れ出し、異型の獣にならないように…はやくセルフォリーフの異次元の穴を見つけないと…！

「天地さん…、あれっ！」
「…また出てきたようだねっ。今宵はトンデモ動物大集合じゃないか」

上空から新たな獣達が姿を現していく。数は六体…、先ほどと同じ複合型だ。
一度に複合型が六体…、弱点を把握しているとはいえこれだけの敵を相手にするのは複数人いても厳しい。
フォーススーツ部隊の装備だけでは、一体を仕留めるのに相当な苦労が強いられることになる。

「おいおい、また随分と変わったのが出てきたじゃねぇか」
「隊長、先ほどの彼らの戦闘の映像を受信しました。…相手は、あの甲羅に包まれていない部分が弱点のようです」
「関節かよ…、随分とまた厄介な相手が出てきたもんだ…、亀野郎といいホント嫌な獣ばかりが出てきやがる」
「相手もそれほど進化しているのですよ…、彼らが言う別世界の異変も…おそらく」
「まぁ…、今はともかくあのミックス怪人を潰すしかねぇ。まったく何処の特撮に出てくるような化け物だよ」
「隊長、それはこれまでの異型の獣にも言えることですが…」

フォーススーツ部隊もこの場に到着し、万全な装備を持ってのご登場。半数は遠距離射撃による支援、もう半数は近距離から敵の足を狙いに行くつもりだ。
敵の気をうまく逸らすことが出来れば狙いにいくこともできそうだが、相手の翼を落としておかなければ上空に逃げられる可能性もある。そうなれば近距離から攻めに行くことが出来なくなる上、上空からの攻撃が降りかかる恐れもある。
万一の時はミサイルによる部位破壊を狙いにいくようだが、いくら攻撃が決まったとしても完全に部位を引き離さなければすぐに回復をされてしまう。おまけにミサイルも相手の魔力の弾であっさりと相殺されてしまう為、無駄に弾を消耗させられることになるだろう。

「隊長、上空から新たに接近する生体反応が！」
「チッ…、またあいつかっ。美味しいところを徹底的に取りにきやがるな……、あの坊主たちもだが…」
「それだけではありませんっ、彼女の他に新たな反応が二つ確認しています！」
「何だとッ…？…また二人、危険人物が増えたって訳かよっ」

上空からこちらに接近してくる三つの赤きオーラ…、俺やユフィの目にもその姿は確認できた。
見覚えのある一人の姿と、残る二人は初めて見る少女達。二人は、全てのカリキュラムを終え、ついに本格投入された二人の新たな生体兵器。
一人は黄色い髪の背の高い少女で、名前はバンヴィーニ。普段バンと呼ばれる彼女はその身長に合わぬ身体の軽さが特徴で、魔力を使った飛行による速度もトップクラスである。
ヒットアンドアウェイを得意とする彼女の戦い方はまさに蝶のように舞い蜂のように刺すという言葉が似合い、トレーニングを記録した映像を確認した投資者達からの評価は高い。
もう一人は、水色の髪色の背の低い少女で、名前はウルスス。普段ウルとよばれる彼女は魔力がきわめて小さいものの、その小さな身体からは信じられないほどの筋力を持ち、魔力を使わずとも強力な格闘攻撃で敵を確実に仕留めてしまう。
また、少ない魔力で正面に強力な魔力障壁をはる事が出来、RPG-7の弾すら容易に防ぐ強固な障壁は防御範囲が限られるものの、決闘着の通常の防御力を遥かに凌駕する。
完全に仕上がった二人がブロッサムと組むことで、その力はより強力なものとなる。生体兵器三人の、最恐のチームである。

「やっと戦える時がきたぁ！この時をずっと待ってたんだッ！わくわくが止まらないよっ！」
「嬉しい気持ちはわかりますが、バンは少し落ち着いてください。相手はこれまでのものとは違うタイプの獣です…、下手に油断をすれば怪我をしますよ。まだカリキュラムを終えたばかりなのですから、まずは慎重にやるべきことに取り組んでください」
「あたしは加減知らないから、ちょっとやりすぎそうだけどっ」
「あなたのことですからそれはわかっていますよ、ブロッサム。ですがせめて私達の倒す分には手をつけないでください。今回のサンプルは、今後の生体兵器の開発にも大きく関わってきます。ここでサンプルを取り逃せば、私達まで説教をされることに…」
「そうだぞブロッサム、あんたが風船みたいにあの亀を破裂させたって話を聞いた時はぞっとしたよっ。ホントあんたは趣味悪すぎっ」

三人はそれぞれ三つに別れ、一人で二体を相手にするつもりだ。ブロッサムと同じ力を持った存在なら…、おそらく三人だけで全て仕留められる。
前回のブロッサムの戦いからしても、あれだけの力があるのならばおそらく一人だけでも容易いことだった。
ブロッサムはやはり前回同様に容赦のない戦い方である…、無理やり敵の口をこじ開けては大量の魔力を放ち、獣を風船のように破裂させていた。もう一匹に対しては全身をバラバラにした上でさらにミンチにするという、あまりにも目を向けられない獣のような戦い方をしている。
一方バンは自慢の素早い動きを活かし、敵の攻撃を華麗にひらりと回避しながら首元を正確に狙う。二体の獣の首を落として機能を停止させれば、彼女は笑顔でガッツポーズを決めている。
それに続いてウルもまた、残り二体の獣に対して攻撃をガードしながらゆっくりと接近し、手刀のみで首と胴体を切り離す。避けるまでもなく全てを受け止めながら敵を撃破してしまった…、おそらく新たな二人の中では彼女が一番恐ろしいかもしれない。

「…随分とまた、とんでもない者が増えたものだよ」
「ですねっ……」

この先、彼女達が俺達にとって大きな脅威となりうるか…。