ENo.2874 茜

「……死んでる」

「そんな、ひどい！」

「まだ若いのに…。可哀想に」

キャンプのテントから１５ｍくらい離れた茂みの中で、川澄伊吹(自称１６歳)が遺体で発見された。後頭部にコブができていたが死因との関連性は不明。発見時、心肺が停止していたため死亡と判断。遺体から１ｍほど横にマンモス肉の嘔吐物を発見。伊吹君が昼に(前回の日記)食べていたものと思われる。

「このままでは彼も成仏できまい。可能な限り犯人を捜してやるか」

俺は遺体の周囲に証拠が無いか調べた。すると、今まで草陰で見えなかったが伊吹君が地面に書いたと思われるメッセージを発見した。

「む、これは…」

【犯人は茜】

チッ、また俺か。紛らわしいから消しておこう。

「茜ちゃん、何か有ったの？」

「いや、残念だが関係なかった」

ふむ。俺は検死の知識など無いから何とも言えんが、やはりコブができている事から鈍器で殴られた線も考えねば。でも、出血はしていないんだよな…。いや、強めの衝撃が頭部に加わっただけでも十分死因になるか…　お？

…足元に何か有ると思い見てみると、形の歪んだ赤い玉が転がっていた。コレが凶器か？

ってか、くりおねの古いコアじゃねーか。コレはもう犯人は……

〜俺は数十分前の出来事を思い返した〜　　　回想入りまーす

「茜ちゃーん。キャッチ＆ボールしようＹＯ！」

くりおねが自身の赤いコアをコネコネしながら俺をキャッチボールに誘って…

「それ…外れるんだ」

「新調したの！だから古いので遊ぼうぜ！」

分からん。この生き物は何もかも分からん。コアを手にとってみると、粘土の塊のような質感でコネコネしたい衝動に駆られコネコネ。

「あっ！ヤダ、恥ずかしいッ！」

こねこね

「きゃっ、やだエッチ！」

「ズルイですーっ、私にも貸して下さいっ！」

ｱｯｰｰｰ!

「どうだ、伊吹君もやってみんかね？」

「色んな意味で勘弁してください。あとトイレ行って来ます」

昼間に食わされ過ぎたマンモス肉がまだキツイらしく、顔色が最悪な伊吹君はフラフラ立ち上がるとフラフラとここから少し離れた茂みの中へ。

「男は何処ででもできて良いよな」

「女の子にとって野営中のトイレって、ホント死活問題ですよね」

もうそろそろ文明的なトイレを求め、ぶっとびオルゼを放り投げそうな俺とこよみの横で、うずうずしているくりおね。

「……お前、ウ(規制)とか言うなよ」

「紳士はそんなこと言いません。ウオッホン！」

「ホントは言いたいんだろ」

「小学生じゃないんですから！見くびられー、くりおね心外！」

俺はくりおねをクルっ回して、伊吹君の居る茂みの方を向かせた。

「よーし、そっち向いてろよ」

「え、何々？何が始まるんです…！？」

本気で事態が飲み込めないくりおねの後で、俺は古いコアを大きく振りかぶった。

「伊吹君さぁ…、今何してると思う？」

くりおねは大きく息を吸い込み、両手を口の両側にそえ…

「ウ

「ハートブレイクショットォォォーーーーーッ！！」
　　　　　　　　　　　ｺﾞｽｯ　「ﾌｷﾞｭｯ!」

間一髪でビクっと体をちぢこませたくりおねの頭をかすめ、コアがあさっての茂みの中へ吸い込まれていく。

「チッ、掠めただけか」

「あ、頭の上を何かが…　大声にビビって命拾いした…」

マジビビリしちゃったくりおねは、怒り心頭で俺に食って掛かってきた。

「ナンなの今の！？　今の流れ良く分かんない！あんなの当たったら死んじゃうでしょ！どういう事なの！？」

「安心しろ、お前を試しただけだ。…そうだな。くりおねのまだ子供の心を捨てていなかったと言う事だ」

「意味分かんないっ！」

だから安心しろって。俺も良くわからん…

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

回想おしまい。

………なるほど。コブとコアの大きさも丁度合ってる気がそぉい！

俺はキャンプ地に背を向け、全力で赤い粘土質の何かを投げた。

伊吹君の頭部にコアは当たらなかった。そう、当たらなかったのだ。

「茜さん、今何か投げました？」

「でっかい虫がいて、びっくりしてついカッとなってしまった」

「どんどん投げて良いです」

さて、死因は確定した。俺に繋がる証拠も大体隠滅した。後は誰が犯人か、だ。それが最大の問題か…。

「…皆さん、何かございましたか…？」

おう。　伊吹君おはよう。

「食べ過ぎた肉を吐き戻しちゃって…　そこで意識が遠退いたような感じになって、気付いたら地面に倒れてたんですよね」

「そうか…、頭に痛みとか無いか？」

「あ、何か痛むような、そうでも無いような…？」

むう…、どうやって彼の発言を誘導しようかと思案したが、そもそも頭にコアがぶつかった記憶が無いようだ。手間が省けてラッキー。

「でも犯人は茜さんですよね？」

おいィ？

「何で俺が犯人なんだよ」

俺は努めてポーカーフェイスを決め込むが、あまりにも即断され内心焦りを覚える。

「意識が遠退いていく中で、私の脳が犯人は茜さんだと告げたんです。間違いない」

「ほう…　根拠は有るんだろうな？」

「意識を失う直前に茜さんの気合の入った声と、何かが風を切る音が聞こえました。思いっきり何か投げましたよね？」

「いやいや。それは飛躍し過ぎじゃねーかなぁ…」

「さっき、真っ先に頭の事聞きましたよね？　茜さんは自分が投げた【何か】が私の頭に当たったと思っている。もしくはそう確信していたから確認したんですよね？」

………やばい。俺こういう戦い弱いんだけど。

「確かに皆の前で丸い物体をブン投げたのは確かだが、それに当たったって証拠は無いでしょうよぉ」

「丸い物体って…、何投げたんです？」

「くりおねの古いコアが要らなくなって、色々あって茜ちゃんが投げちゃったの」

「丁度ですね、伊吹君が入っていった茂みの方に思いっきりブン投げたのを私はハッキリと…」

止めて、もう勘弁してくんろ…

「いやぁ、コアがぶつかったから気を失った訳でもないっしょ。ほらずっと気分が悪かったでしょ。吐き戻してそのまま体力を失ってバタンといっただけかも…」

「仮にそうだとしても、そもそも私が吐くまで気分を悪化させたのも、茜さんの臭いがキツかった(ﾄﾞｽッ)うっ」

口より先に、俺の拳が伊吹君のみぞおちに滑り込んだ。

「うんそうだね【血の臭い】がキツかったんだよね、血の臭いがね！　ホント昼間被った血の臭いがキツクて取れなくてサァ！ゴメンネー、血の！臭いを！　プンプンさせちゃってよぉ！　じゃあ血の臭いに敏感な１６歳は、安全な場所にしまっちゃおうねェ！」

伊吹君を【しまっちゃった】後、俺は息を整え振り返った。
何故か皆正座していた。俺も正座して真っ直ぐなカメラ目線で一言告げた」

「全て俺が原因です。ごめんなさい」