ENo.1604 エナ＝キークロップ

◆朝：盗賊退治です、負けませんよ〜！◆

さて、今日は朝から盗賊のアジトを探して歩き回っています。
しかし全然見つかりません。
それもそのはず、よく考えれば盗賊たちはこの地で暮らしているわけで、
当然見つかりにくい場所にアジトは形成しているでしょう。
それを、こんな短時間で見付けられたらたまった物ではないですよね。

キュ「でも、それだとどうするの？私が頑張ろうか？」
エナ「大丈夫です。盗賊さんたちが活動期になればあっちから見付けてくれますよ」

結局は受けの体勢で見付けてくれるのを待つしかありません。
なので見つかりやすいよう、太めの道をふらふらしながら歩いてみることにします。
ふらふら〜、ふらふら〜・・・

キュ「ちょ、ちょっとエナ。そんなに挙動不審だと盗賊にすら敬遠されるわよ」
エナ「へわっ！」

盗賊にすら敬遠される・・・そんなことになったら立ち直れそうにないです。
では、しっかり過ぎないように迷った感じでおどおどと・・・
口に手を当てて周囲をきょろきょろ見ながら及び足で

キュ「・・・さすがにそれは罠かと思うんじゃない？」
エナ「それじゃあ、どうすればいいんですか〜！」

木を伝ってわたしの方と周りを見張りながら着いてきているキュークに怒鳴ります。
その声に驚いてか複数の鳥が飛び立ちましたが、そんなことは気にしていられません。
草むらがごそごそと動いているのも気のせいです。
って

キュ＆エナ「あっ」
お頭「嬢ちゃん、いきなり大きな声出すとびびるじゃねぇか、ほら、アイツがそれで転けて怪我しちまった、どう落とし前つけてくれんだ？」

えーと、わたしの演技とか関係なくもう結構近くにいたようです。
そしてこうやって話しかけてきたと言うことはおそらくこちらの戦力は知られていないはずです。
するすると、キュークも戻ってきて定位置に巻き付きます。

エナ「そんなの、知らないです。心配ならお薬いっぱいありますよ〜？」にっこり
お頭「え、な・・・なんなんだお前は」
エナ「盗賊の退治依頼を受けた旅人、あ、こちらでは冒険者でしたか？」
お頭「またか、前はこっちが襲うだけだったのによ・・・だが、三対一で勝てると思ってるのかい？・・・やろうども！」
三下たち「へいっ」
お頭「ここまで挑発してきたんだ、こっちが勝ったら持って帰っても文句はいわねえな？」
エナ「言いませんよ・・・そんなことは万に一つもありませんから！」
キュ「エナが熱血してる・・・」
エナ「ちょっと、水を差さないでください」
お頭「ちっ、後悔させてやらぁ！」

・・・・・・
・・・

お頭「かはっ・・・」
エナ「ふぅ、口ほどにもなかったですね」
キュ「ん〜・・・まだ熱血モード中〜？」
エナ「キュークはちょっと黙っててください」

予想通り、そこまで強くなかった三人を打ちのめして対峙しています。
三下さんたちは気絶している模様。お頭さんも足を重点的に狙ったこともあって立てないようです。
さて、ここからどうするのが正解なのでしょうか

三下たち（きゅ〜〜）
エナ「ま〜、さすがに命を取るまではしませんから、もう盗賊家業なんて辞めてくださいね」
お頭「ふん、どうだかな・・・」
エナ「そんなこと言ってると、できない身体にするという選択肢を選びますよ？でも、辞めるというならお友達になって下さい。一緒には行けませんけどね」
お頭「くっ・・・」

顔をゆがませ、背後で倒れている三下たちとわたしのことを交互に見ながらいろいろと考えているようでした。
そして、では結論は和解。盗賊は辞めるとのことでした。
『どっちにしろ、お前のような小娘にやられるようになったとあっちゃあ、商売あがったりだ』らしいです。
そのあと、三人ともわたしのお薬で治療した後、一応お名前を交換して去りました。
また会ったらそのときはいろいろとこの世界のことを話してもらいたいです。

◆昼：森の中を探索です。心細いですが◆

盗賊退治が終わった後、いつも通り探索を始めたのですが全然めぼしい物が見つかりません。
小さな枝やちょっとした石なんかは見つかるのですが、とてもとても加工して何かと言うほどの物は。
いつも都合よく見つかっていたのが奇跡だったのでしょうか。

エナ「見つからないです」
キュ「そうね〜、でももうエナは結構そういう物持ってるからいいんじゃないの？」

確かに、カバンの中に入っている私物とは別に袋を持っているのですがそっちは結構満杯になるほど物が入っています。
さっきの三下さんの剣の端なんかも綺麗な形をしていたので持ってきてしまいましたし・・・
ん？竹・・・？

エナ「この竹はなんでしょう？持ってた覚えはないのです」
キュ「さっきのお頭さんがこそっと入れてたわよ、物をとるのかと思えば入れててびっくりしたわ」
エナ「お礼というのもおかしいですが、そんな感じの物なのでしょうか」

そうは言っても今から戻って聞くわけにもいかず、
今日の所はこれで満足して探索を打ち切ることにしました。

◆昼：チョコレート。渡しそびれました。◆

エナ「あっ」
キュ「どうしたの？」
エナ「これ・・・」

そう、なんだか世の中が甘味交換会でにぎわっていたとき、
こちらから送ろうと思って作っていたのがカバンの鍋の影から出てきました。
一応前半の方は渡しておかえしももらったので、多分後半の方ですね。

キュ「あ〜・・・どうせなら、ルニちゃんにでもあげておけばよかったわね」
エナ「そうですね。でももう遅いです」

特定の物を空に投げると自動でワープするこの世界特有の現象は一定の日のみなのです。
今も近くにいるとはいえ分かれていてまだ合流もしていないですし・・・
というか、どうしましょうこれ。

キュ「そうね、ぱなどさんからもらったおかえしと一緒に腐らないうちに食べちゃいましょ」
エナ「チョコの方は・・・溶かしてホットチョコレートにでもしちゃいましょうか」

大分温かくなってきたとはいえ、森の中を歩いているとまだまだ肌寒いです。
昨日もキュークに抱いてもらってなかったら風邪をひくところでした。
大きな中に入れるクッションのような物に変化してくれてそこに入っていました。
ほこほこ・・・いつも後になってよく考えたらキュークの身体の中だったんじゃあと思うのですが、
昔からのことなので慣れてしまっています。

エナ「ふんふ〜ん♪」
キュ「エナ、ご機嫌なのはいいけど、虫は入らないように気をつけてよ。変な毒持ってるのもいるかもしれないんだから」

大半の自然毒はわたしもキュークも食べて平気なのですが、それは元の世界の話。
こっちはいろいろと新種の毒があるので油断ならないのです。
竈馬が巨大化するぐらいですしね・・・

さて、今日のおやつは久しぶりにすごくあまあまです。

◆夜：新薬の開発です。でもなんか変です・・・◆

エナ「ふーむー」
キュ「またやってるの？飽きないわね〜」

趣味はそうそう飽きない物です。
それはそうととても悩んでいるのは目の前のお薬のせい。
いつも通りの物を作ったはずなのに、なんだかいつものものと色も違い輝いているのはどういうことでしょう？

キュ「それにしても、その薬まぶしいわね、何作ったの？」
エナ「分かりません」
キュ「は？」
エナ「分からないんです」

さすがにこの危なそうな物を少しだとしても舐めてみたりするのは危険すぎます。
キュークに舐めてもらうのは・・・もっと危ないですね。
なのでこのお薬をどうするのかを悩んでいるわけです。

エナ「とりあえず、複製できるように記録だけとっておきましょうか」
キュ「効果試さなくてもいいの？」
エナ「キュークがやってくれるなら歓迎ですよ？」
キュ「やめとく・・・」

原因は普段入れないところでわたしの涙が入ってしまっていたことのようでした。
しかも、痛いときの涙限定のようで、うれしいときや悲しいときの物では完成しませんでした。
作るときに毎回何かを目に入れるのとか嫌です・・・

キュ「私が思いっきりつねってあげようか？」
エナ「えんりょ・・・いや、そっちの方が実害が少なそうですね・・・」

◆過去：お父さんについて◆

続けて今日はお父さんのことについて書いてみようと思います。

お父さんの名前はクビキ＝キークロップ。
元の苗字は何度聞いても教えてくれませんでした。
知っているのはお母さんだけでいい、らしいです。
そこまでかたくなに隠さなくてもいいのにとは思いますが、何か重大な秘密があるのでしょう。

姿は大柄でわたしの髪の色と同じような色をした尻尾を九本持っています。
もともとは、そのまま大きな九尾の貂らしいのですが、ほぼ常にヒト型に化けていて、
元の姿を見た記憶は一度か二度くらいしかありません。
そのときはすごく怖かった覚えがあります。
ヒト型の時は大抵トレーナーにベストにジーパンというおおよそ九尾の貂には似合わない服を着ていることが多かったように思います。

種族は上記の通り貂です。
好きなことは同じく本を読むこと。
ただし、お父さんの読んでいる本はわたしにも読めない文字で書いてあることが多かったです。
嫌いなことは特になし。あえて言うならわたしの料理といわれたことがあります・・・
当時はまだまだ未熟もいいところで自分の好きな味になるように砂糖や蜂蜜を大量投入していましたから
当然といえば当然ですが・・・
むしろ、お母さんがおいしそうに食べていたのを今になって不思議に思うほどです。

そして、これまで随所に出てきていたように、
お父さんはいろいろな術のエキスパートで世界各地を渡り歩きながら何でも屋さんに近いことをしているようです。
図書館の利益だけでも十分食べていけるそうですが、
お母さんと結婚した際穀潰しになるのは嫌だと始めたらしいです。
その甲斐もあってか周辺の村や街からはとても慕われているようでわたしも結構よくしてもらっていました。

あと、触れなければいけないのがお父さんのもふもふ具合です！
わたしの尻尾とは比べものにならないくらい毛も長く細くキレイで、でも柔らかくてふんわりしていて、
そこら辺の羊や、お狐さんなんかでは比べものにならなかったです。・・・お父さん曰く知り合いの狐に上がいる、らしいですが・・・
さらに、毎日手入れをするのに早起きして一時間近くかけているらしいです。
わたしも力をつけて尻尾が増えたら同じように手入れをしなくてはいけなくなると思うと少し、躊躇してしまいますね。