ENo.179 雑草王女

フッサアアア！

歩行雑草「モッサアアアアッ！」

　このような対決を、誰が予想しただろうか？

フッサアアア！

歩行雑草「モッサアアアアッ！」

　己こそが森の覇者と言わんばかりに、雄叫びを上げるダイナミック羊。
負けじと叫びを返す歩行雑草。

フッサアアア！

歩行雑草「モッサアアアアッ！」

　桜舞い散る伝説の樹の下で出会ってはいけない奴らが出会ってしまった！
不倶戴天、血で血を洗う死闘が今ここに！

『雑草王女ＶＳダイナミック羊〜大きな桜の樹の下で〜』

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第１５話『雑草王女ＶＳダイナミック羊〜大きな桜の樹の下で〜』

　虹色天幕一行は一路ダイナミック羊が出現すると言われる場所を一路目指していた。
縁の掌に座す緑の表情はいつにも増して険しい。

　敵はダイナミック羊。
わかっていることは、素晴らしい毛を持つというその１点である。
敵の戦力を把握した上で対策を練るということが当たり前にできたこれまでの戦闘に比べ、不安要素が多い。

「素晴らしい毛を持つということは・・・防御力が高いということ？」

「この間噂になっていたゴーストさんとかいう敵は物理攻撃のダメージを９９％するって聞いたんですけど・・・」

「え？何？それ完全に無理ゲーじゃない？」

「遮断されるのが物理にせよ魔法にせよ、ＨＰ減少効果は変わらずに通るはずよ。」

「そうね。それに、それが通らなければ私たちが勝つことは出来ないでしょう。」

「じゃあ、これに関しては確定ね。スタンバイしておくわ。」

「で、こっちはどうすればいい？」

「敵が鎮痛でも持っていれば下手な攻撃は逆効果だわ。遮断を張り続けましょう。」

「戦闘前に鎮痛を付加して多段攻撃に備えた上で、遮断によって単体高係数技を防ぐわけか。理に適っているな。了解だ。」

「僕たちは？」

「いつも通りよ。ただただ、耐える。引き分けにならないための一撃を放てるだけの余力を残した上でね。」

「だよね。それしかないしね。」

「頼んだわよ。兄さん。」

　概ねそのようなやりとりを経て、ある程度のプランは決まった。
とにかく生き残る。粘る。自分たちの持ち味、耐久力を最大限に生かす。
敵の出方がわからない以上、これ以上は策の練りようがない。
しかし、不安は拭えない。
何か他に打てる手はないか？やっておくことはないか？
緑は考えを巡らせ続けた。

えにし「あ、桜・・・」

　奥深い森を抜けると、桜の木が見えて来た。
オルゼの街で聞いた話によると、この先の森には一際大きな桜があるとされている。
この桜は確かにその桜に比べれば小さいのだろう。
しかし、この桜に漂う、何とも言えぬ存在感。
それは大小では計り得ぬ、別の次元の何かだ。

　この桜の木がこの土地一帯の土壌の養分を吸い尽くしでもしたのだろうか。
桜の木を中心にまるでコロッセオの如き空間が設えられていた。
先程まで鬱蒼と繁る木々によって遮られていた陽の光が、燦々と降り注ぐ。

みどり「なるほど、わかりやすいわね。」

　ここがダイナミック羊が出現するという場所に相違無いであろう。
その場にいた皆が皆そう確信した。

「フサァァァッ！！」

　桜の向こうから、白い塊が現れた。
大きさ自体は羊としては規格外ではあるものの、歩行雑草化した縁には見劣りする。
宛ら子羊のようにすら見える。
しかし、目を引くのはサイズなどどうでも良くなるその『素晴らしい毛』
先程の桜の話では無いが、大小の問題では無い。

みどり「あの毛並み・・・確かに見事ね。衝撃にも強そうだわ。」

　先般倒した巨大ミミズの曲線美とやらは解すことができなかったが、
このダイナミック羊の毛並みには緑も感嘆せざるを得なかった。
同時に、この毛による防御をかいくぐってダメージを与えることができるのかという懸念が生じた。

　と、空を切り、羊の下顎に鉤が突き刺さる。

「さ、これで逃げられないわ。緑さん、後は任せたわ。」

　ライゼの投げた鉤に繋がれたロープを歩行雑草らが必死に引っ張る。
もがけばもがく程に刺さる鉤は、毛の防御力を無視して確実にダメージを与えた。
何とか粘りさえすれば自滅に追い込むことができる。
ダイナミック羊が流血する様を見て、緑の懸念は薄らいだ。
更にその懸念を振り払うべく、緑が動く。

みどり「視力があるのかどうかもよくわからないけれど・・・」

　緑の目が閃く。
マナを光と為して敵の視力を奪うその技は、どうやらダイナミック羊に有効に働いたらしい。
だが・・・

「フサアアアアアッ！」

　視力を奪われ身を丸めて転げ回ったダイナミック羊によって、早速歩行雑草が数体轢死した。
馬鹿げた攻撃力。
セルフォリーフに来て味わった中で、最強と断言して差し支えない。
しかし、すぐさま緑が歩行雑草を増員。陣形はすぐに立て直された。

みどり「まずは動きを封じましょう。」

　すぐさま歩行雑草らがダイナミック羊に纏わり付いていった。
しかし、様子がおかしい。
歩行雑草らの攻撃が全て毛に遮断され、全くダメージを与えられない。
それどころか、攻撃を加えた箇所の毛が盛り上がり、

歩行雑草「モッサアアアアアッ！」

　盛り上がった毛に包み込まれた歩行雑草数体が逝った。

みどり「目には目を、歯には歯を、ウールにはウールよ。」

　事前に予想し得なかったダイナミック羊の不気味な攻撃にやや気圧されながらも、緑は作戦通りの指示を続行する。
歩行雑草らが毛を毟らんと手を突き込むが、またも毛が盛り上がり歩行雑草らの攻撃を阻んだ。

みどり「鎮痛、その上反撃まで・・・本当に下手な攻撃は命取りというわけね。」

　壁となって敵の攻撃を防ぐ。
この任務を遂行するには敵に必要最低限ながらも攻撃を加え続けなければならない。
さりとて、それを続ければ続けるほど、ダイナミック羊は肥大化していく。
今や存分に盛り上がった毛により、ダイナミック羊は縁と並ぶほどの巨大さとなりつつあった。
更に、その勢いはまだまだ止まらない。
ふっさふさである。

みどり「なるほど、これは予想外だわ・・・」

　その名からして小細工を弄するタイプではないだろうと予想してはいたが、予想外と言えるまでの力押し。
耐久力に任せてゴリ押す戦法は、取る手段に違いはあれど、まさに雑草王女のそれだ。

みどり「もしこういう戦術を取ってくることがわかっていたなら、もう少しマシな対策も取れたのだけれど・・・今更言っても仕方の無いことね。あとは、泥仕合よ。」

えにし「モッサアアアアアッ！」

　攻撃は毛に阻まれて通らない、さりとて、最初に打ち込んだ鉤は次第にダイナミック羊の体力を奪っていた。
そして、ライゼが次々に放つ薬品がダイナミック羊の体の自由を奪っていく。
歩行雑草らの攻撃によって遂に縁をも飲み込みかねないほどに巨大になったダイナミック羊だが、
その実、瀕死と言っても差し支えなかった。
そんな時、戦場に吹く一陣の風。

「フサアッ・・・」

　ダイナミック羊が体を震わせて倒れ込んだ。

みどり「ライゼさんの新兵器？相当効いているようだわ・・・」

　倒れて動けなくなったダイナミック羊の体をロープで巻き上げる。
と、そこに、また件の『新兵器』が打ち込まれた。
とはいえ、緑にも縁にもその新兵器が使用されたのかはわからない。
恐らくはＡＫＡＺＯＮＡＥの２人にもわかっていないだろう。
またダイナミック羊は軽く呻くと涙を流して地面に突っ伏した。

みどり「あの毛の防御を無視して内部に攻撃を通している？」

　外傷を与えているという風ではない。
しかし、戦闘開始時に撃ち込んだ鉤以外ではどうにかまともなダメージを与えることができた。

　そして、一際強く吹く、風。
緑と縁の背筋に悪寒が走った。

みどり「何なの？この気持ち悪い感じ・・・」

　と、ダイナミック羊が硬直する。
息を止め、やがてプルプルと震え出し・・・

「ブ　ザ　ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛」

　盛大に吐血し動かなくなった。
やはり外傷は無い。

「何しろ新しい技だったから少し手間取ったけど・・・どうだったかしら？」

みどり「充分よ。いえ、充分すぎるくらいだわ。もっと効果的に運用できるよう、また後で詳細を聞かせてもらうとするわ。」

「・・・な、な・・・これだけの攻撃を受けてなおこの毛ざわり・・・・・・」

背後から突然声がした！

アードナス
野獣愛好家のご令嬢。
捕獲依頼を出しては家のペットにしている。

「はぁい、またやってもらっちゃってありがとねぇ。この羊ちゃんはしっかりうちで飼って寝室に活用するわ。」

とても満足そうな顔を浮かべる。

「・・・・・・それはそうと、今度うちに遊びに来てくれないかしら。やってもらいたい仕事があるの。」

「・・・内容？・・・・・・ひ・み・つ！それじゃーね。」

にやっと笑い、羊の回収を終えた執事と共に去っていった。
別の執事らから報酬が支払われる。
計７２００ＰＳ。
一時的にではあるが、救援者らの中の長者番付に名を連ねることになるであろう。

「で、どうするの？」

みどり「とりあえずは計画通りエスタを目指しましょう。アードナス邸に行くのはそれからでも遅くないわ。」

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そして今日も今日とて名ばかりの【第一回文章コミュイベント参加】
窓から手を伸ばせば桜。朝は鶯の鳴き声でお目覚め。
そんな風流に浸りながらもパンツレスリングをＢＧＭに書き上げました。