ENo.1774 募集中

今日の寝起きは最悪だった。
脳みそ寝違えたみたいな感じ。
ジルのご飯を食べて、物理的な頭痛はだいぶマシになったけれど、
まだ、あの夢の事をジルに話していない。

「…そろそろほとぼりも冷めてるだろうし、一度街まで戻らないかい？」

火の後始末をしながら、漸く話を切り出した。

「おや、急にどうした？」

会話は始めたものの、どう説明したものか。
天使がジルを…殺そうとしているだとか、それを夢で天使に教えて貰っただとか…。
ジルは僕を信じないかもしれないし、天使を信じないかもしれないが、
言うだけ言っておいた方が良いだろうとは思っている。

「この先は深い森と山岳が連なっていて危険だし、慎重に進んだ方が良いんじゃないかと思うんだ……
　僕のせいで十分な準備も出来なかったし…」

ちらとジルを伺う。

「まぁ、君のせいかどうかはどうでもいいとして、確かに準備不足ではあるな。よかろう、進行は君に任せる」

ちょっと驚いた。

「えっ…うん、ありがとう、ジル。」

ジルは早く進みたいと言う気がしたし、
それよりも、素直に僕の言う事を聞いてくれるなんて。
…まあ、準備不足は明らかだし、ジルはそんなに無鉄砲じゃない…と言う事だろうか。
そうと決まれば、ジルの気が変わらないうちに出発しよう。

「じゃあ、一度戻って態勢を整えよう。人狩りにも注意しないとね。」
「なぁに、もし連中に会っても君が守ってくれるんだろう？」

ジルが楽しそうに笑っている。
何だろう、この違和感…

「ん…え？それは勿論だけど…」
「死ぬ気で守り給え、君の有能さ次第では少々ご褒美を与えてもいい」

そう言って、ジルはさっさと歩き出す。

「ジル！？な、なにかあったのかい？？」

ちょっとサービスしすぎじゃないかい？
いや、嬉しいけど。
僕がジルを守るのは当然の事なのに。

「別に何も。君こそなんだ、血相を変えて」
「いや……任せてくれ、ジルは僕が守るよ！
　…ところで…僕、今日寝言とか言ってたかな…？」

あの夢のせいで、変な事を言ったのを聞かれたのかもしれない…。
それを面白がってる？

「ついでにそのまま死んでくれるといいのだがね。」

なるほど。

「…さぁ？言っていたようないないような。君の無様な寝姿など微塵も興味が無いのでわからないな。」

まあ、聞いてても素直に教えてくれそうにないよなぁ。

「うーん…そうか……ところでジル、天使はこの世界には入って来られるのかな？」
「…突然どうした？なぜ君がそんなことを気にする。」

夢の話が続いている間に言ってしまった方が良いだろう。
急だったかもしれないが、タイミングを逃すとまた言い辛くなる。

「いや…天使がジルを狙っていると聞いて。敵の行動範囲が解った方が、警戒しやすいからね。」
「さぁな。今までちょっかい出されてないことを考えるにそう簡単には世界の壁を越えられはしないだろう。特にここではな。」

興味無さそうな反応だ。
ジルは元々、自分が天使に狙われている事を知っていたか、予想していたのかも知れない。

「そうか…まぁどちらにしろ、ジルは僕が守るけどね。」

ジルが目を細めて笑う。

「当然命をかけて、だな？」

ついさっき聞いたジルの望みは、ジルを守って僕が死ぬ事だ。
ジルにとっては、露払いも厄介払いも出来て一石二鳥と言った所だろう。
それは、僕にとっても。
この命を掛けてジルを守れる。ジルの望みを叶えられる。ジルの役に立てる。
それはとても素敵な事だ。

「勿論、そうさせて貰うよ。」

想像して顔が緩む。

「期待している、必ず応えてみせろ。」

期待している。
ジルが僕に望んでいる事がある。

「ありがとう…その時が来たら、必ず…」

ジルに危険が及ぶのは悪い事だけれど、つい、想像してしまう。
それは、僕の気持ちが自分勝手な”恋”だからなのかも知れないけれど、でも
本当にそんな時が来たら…その時には与える事ができる。

初めて、ジルを”愛”する事ができるんだ。