ガボンと大きな音がした。 「先生！　若先生……！！」 飛び込んだ水の中では、音がくぐもって聞こえる。わたしはその声よりも、もっと己の求める声を捜した。 引っ繰り返った船底が見える。罪人が上へ押しあいへし合いしているのが見えた。その中に、求める姿も声も無い。 大勢の肺腑から漏れ出る音を、わたし自身からも聞いた。 これは、ある流人船の難破事故の記録である。 流人船は罪人の船である。 江戸の永代橋の付近に御船手組の御番所がある。船はそこから出る。行先は、大島、三宅島八丈島など——。所謂、遠島という仕置きだ。 この流人船は「るにんせん」という幟がたてられており、重罪人が乗船していることを意味していた。行先も八丈島へ行くものである。 本来、そのような船にわたしのような一介の牢医者が同船することは無い。無いが、無理を言っての同船であった。 十六歳の男が、密かに将来を言い交した女が拐（かどわか）しに遭い、拐しを企んだ男を殺した。 殺すつもりは無かったという。頭に血がのぼり、気が付いたら相手が死んでいたというのだ。 この件は殺しがあった直後、自ら自身番に届け出たことまた情を酌まれて罪一等を減じられていた。男は下手人（死刑）になるところを免れたのである。 沙汰があってからは小伝馬町牢獄にて静かにその日を待っていた。男は優秀な働き手であったが、もう二度と今のような暮らしには戻れない。 その男とわたしの関係性は、牢医者と病人の間柄であった。 男は胃の腑を病んでいて、わたしによく痛みを訴えてきたのである。沙汰がある前、男は東の大牢に居たが、その頃から馴染みになっていた。 腹病みといっても、重篤な病ではない。そもそも重篤な病であれば、ここ（小伝馬町）ではなく、浅草か品川の溜（たまり）に送られる。 だが、快復するには時間のかかる病であると見受けられた。それ故、わたしは心配になったのだ。 果たしてこの男、遠島にて生き延びられるのか。と。 わたしが八丈島行きの船に乗り込んだのは、そうした心配。あってはならないことだが、男への哀れみといったものからだった。 町医としても名を知られはじめ、一年後には遊学が控えていた。それを無視してまで、男に付き添わねばならぬ理由など、本来無い。 真面目一辺倒で知られたわたしが言い出した、最初で最後の我儘であった。 水の中は冷たい。耳に水が這入って来る。音が益益遠ざかる。 流人船が転覆した折、確かにこの目で見たのだ。あの男が投げ出されるのを！ 折角診てきたのに、台無しになってはかなわない。わたしは助けたいのだ、あのかわいそうな男を。 嗚呼、息がもたない。一旦引き返すべきだ。 上へ。上へ戻ろうとする。もがく。上へ。 ——上は、どっちだ？ その日起こった難破事故の記録は、今はもう無い。 もとより、この秘密裡に乗り込んだ医者の末路など、書かれてはいなかったのだが。

《海底探索協会》

《海底探索協会》

馨庵は周辺を探索…………。

今回はアイテムを見つけることができなかった！

馨庵はSSシェルボックス(低)を購入した。

馨庵はTGシェルボックス(低)を購入した。

馨庵は精神を訓練した。
馨庵は精神を訓練した。
馨庵は精神を訓練した。
馨庵は体力を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。
馨庵は体力を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。

目的の決定