少女は黒い猫の背中に手を置いた。

ぞくり、ぞくりと、薔薇が手元から咲き、

零れて落ちた。

血のように、滴り落ちる薔薇の花。

どろりとした炎が掌から零れ、

花炎の香りが、少女から、零れ落ちる。

少女の、小さな呟き。

長い刃が、黒い髪を巻き込んで、アナタの眉間の肉を割く。

ただし、刀は顔を貫く事はない。
通常の人間なら当然有る、頭蓋が刀のソレ以上の侵入を拒んだから。

勿論、刀を右か左に少しずらし、目元を貫けば、
後頭部の骨にぶつかるまで、刀は吸い込まれてゆくだろう。

だからつまり、彼の身体は、普通の人間と同じ構造をしていて、
刀の刃には肉から漏れ出た血が伝うし、
その血の溢れてゆく度に、彼の声は絶え絶えになる。

ぶつぶつと、

か細い声で、

淡々と話し、

鼻で笑った。

黒く光る何かを指差し、
「一緒にしないで」と加えて、
彼は話を続ける。

"か細い声"は、少しずつ大きなって、

"淡々"は、"連々"になり、

"ぶつぶつ"は明確に、

相手への、"言葉"に成る。

彼が高い声で笑えば、
黒いモヤが、再び部屋中に散って行き、

笑い声を止めれば、
額から流れる血を拭って、啜る。

彼は、立っているだけ、されるがまま。
舌だけが、彼の唯一の意思を見せる。