○月　××日



　地下牢を進んでいたら、突然、ティアが戻ってあのエンブリオと契約したいと言い始めた。

　特に他に戻る理由もなく、戻るのには時間がかかるので止めたのだが、
　
　ティアはあのエンブリオと契約しないと、必要だからと言って慌てて地下牢を出て行っちゃった。



　きっと、私を誘ったときと同じような、あの勘のようなものだろう。

　私にはよくわからないが、きっと彼女には必要なことなのだろう。

　なら、無理に止める理由もないし、後で帰ってきたときにそれをネタにいじめ……もとい、いじってあげるだけにしておこう。




　それで、3人でこれからどうしよう、と地下牢から出たところで話し合っていたら、

　その様子を見ていた、穏健派を名乗る賞金首の人から取引を持ちかけられた。




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　かつて、イオナ＝ユフィドールは奪われた側である。



　だから、奪われることの痛みは知っているし、奪う行為をする人は嫌いだ。　許せないとさえ思う。

　もちろん、奪われたからといって彼女にそんな安っぽい正義感があるわけではないし、勧善懲悪を望んでいるわけでもない。



　個人的に恨みがあるだけだ。



　それでも、イオナ＝ユフィドールは奪われた側である。



　しかし、これは協力ではなく取引だ。

　相手に利があり、こちらに利がある。

　ただ、それだけの話。



　ならば、そこに断る理由はない。

　断る理由は……ない。







　だから、




　「よろしくね、賞金首さん。」




　そう言って、イオは目の前の相手に向かって自然に、ごく自然に微笑んだ。