「捨ててきました」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　———— 情




　あの占い師の言葉を反芻する。
　家族。魔属にも存在し、女王陛下にも私にもかつて存在したもの。


　兄弟が死んだことを女王陛下から知らされた。顔が似ているとはいえよく見つけ、監視していたと思う。もっとも、監視の理由は私が知りたがった場合を考えてのことだったらしいが。
　死因は判別できなかったらしいが原因は解る。兵力の一と数えられ、消費されただけのこと。
　涙は出なかった。情がわかないといった意味ではなく、それこそ戦場に出た時に覚悟していたからだ。
「どうする？」
　死化粧を施された死体を前に女王陛下が問う。乱雑に積み上げられ焼かれるはずだったそれが魔属の手によって丁重に扱われていることがおかしくてたまらなかった。棺に収められ、簡素だが質のいい服を着せられた兄弟は恐らく生涯で——死後だが最高の着心地と寝心地を味わっているはずである。
「墓もないですし、この国のどこかに埋めて頂ければ」
　これは抜け殻だ。中身はここにはいない。やろうと思えば探し出し引きずって生き返らせることは可能だろうがその気は無かった。死ぬものを生き返らせてもまた死ぬだけなのだから。
　そう、と女王陛下は頷き持っていた白い花を棺に入れた。戦場でならば何の躊躇いもなく死体を踏み躙り舞い踊る彼女だが己に敵意のないものには何処までも優しい。戦場に残された遺体は敵ではないと、追い剥ぎすら許したことはなかった。　証拠に遺品であろう武器と防具が磨かれた状態で共に入れてある。逆に生きてる間ならいくらでも奪っていいとお墨付きをくれるのだが。
「…………」
　骸の目は閉じられているため表情は判らない。記憶にある顔と名前は一致するが、やはり解らない。
　生まれ変わりも死後も信じては居ないが一応の祈りを捧げた。確かに存在した、私の家族のために。


　寂しさを感じたことは恐らくない。隣で寝息を立てている彼女の世話をしていればそんな暇はないし、死体と面会して漸く身内が死ぬと悲しいという感覚を思い出したくらいだ。
　癖のつき始めた髪を撫で、出しっぱなしの尻尾を撫でてみる。眠りについて時間が経ったせいか体はひんやりと冷たい。
　目を閉じる。何もかも今更だ。

シーン

　ばきょっ

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。