風に晒されていた肩が、ふわりとした重みに覆われる。
長い袖に隠れる指先。
着せかけられた上着に残ったぬくもりが、かすかに胸を刺した。

いつか触れた手の温度を、思い出す。

「貴女に背後を歩いてもらうつもりはありません。貴女の背後を歩くつもりもありません」

そう言って取られた手のことを、私は今でも覚えている。
あの頃から変わらない。
私はこのひとから、与えてもらってばかりだ。

何もできないのに。 与えてもらって、奪ってしまって。
それでもなお彼は、負担をかけることなんて心配しなくていいと言って、笑う。
そうして背後に庇われた瞬間の衝撃をどう言葉にすればいいのか、私は知らない。

受け入れられる、ということ。

かあさん以外から得られるとは、思ってもいなかった経験。
幼い日にあれほどに希い、そうしてやがては諦めたもの。
光り輝くようなぬくもりを、この世界のひとたちは、私にいくつも与えてくれる。

その暖かさが、刺さるように切なくて痛い。
私には過ぎたもの。 ほんとうはきっと、もっと誰か、それを傾けられるべきひとが、いるはずの。
触れたぬくもりに火傷をしそうで、ひどく怖かった。
けれどその一方で、あまりにも冷えた指先が、そのぬくもりを手放したくないと震えている。

私は何も、拒みたくないと思っていた。
なのに、拒まれない自分を想像したこともなかったのだ。

拒まれるだけの理由を、私はいくつだって持っている。
欠けていたもの。 失ったもの。 罪。 手に入れることさえ諦めたもの。
けっして消えることのない罪人の証を抱えたままで、受け入れられるはずもないと。

そう思いながら、それでも、今だけは。
今だけでも、いいから。

女が、紙片を片手に立ち尽くしている。
俯いた表情は、よく見えない。

足音に気づけば、振り返る。

燈子に抱きついたまま、プルは言葉を紡ぎはじめた。
その声はいつもよりも少しだけ、理性の色が濃いように感じられる。

息を吸って、吐く音。

パキンと、足元から硬い音が響く。

見れば、地面には拳ほどの石が真っ二つに割れて転がっていた。
プルは一呼吸置いた後、少しだけ身体を離して燈子の目を見た。

彼はそっと手を伸ばしたが…

突然苦しがった。

鳴子を見て、わずかに視線を落とす。