他人と戦いの場に身を置くのは、二度目だった。
いつか、森で出会ったうちのひとり。鍬を持った男のひと。

装備を作ってもらったこともある。
お礼も満足に渡せないのが、ひどく心苦しい。
私は、私から奪っていかないやさしいひとにばかり、迷惑をかける。
そういうやさしいひとから、私はいろんなものを奪ってしまう。そうしないと、生きていけないかのように。

こんなとき、私は確かに父の娘だと実感する。
奪わずには生きていけない。父がそうだったように。

たとえば村でかあさんが疎外されていたのは、間違いなく私のせいだった。
片角のできそこないを産み、あまつさえ、その腕のうちに庇って生きることを選んだせいで。
私を見捨て、赤子のうちに、売るなり水辺に沈めるなりしておけば、きっとかあさんはもっと平穏に暮らせた。
事実、村の者とかあさんとの間には、隔てられるべき何ものもなかったのだ。
私だけを、除いて。

かあさんは優しかった。優しすぎた。
だから自分で産んだ私はおろか、父さえをも見捨てられなかった。
そうして何も捨てられないまま、死んでしまった。殺されてしまった。

優しさの代償に与えられるものが死だなんて、過ぎた理不尽だ。
でも私には、それを誰かに詰め寄る権利も、運命と呼ばれる何かを責める権利もない。
かあさんの背に守られるばかりで、父の前に立つことさえまともにできなかった私には。

なのに。


「貴女に背後を歩いてもらうつもりはありません。貴女の背後を歩くつもりもありません」


そう言った彼は、こんな私の手を、取った。

しきりに背後を振り返りつつ進む。