「エリア、花火を見に行こう！」



凍てつく冬のクリスマスの日の夕暮れ時。
人狼の少年がエリアの元を訪れて誘う。

「夏に見逃しちゃったからずっと楽しみにしてたんだ。
この世界にクリスマスって概念あるかどうかわからないけど、ルリアンナさんの誕生日でイベントがあるらしいから」


もしもエリアが承諾したなら、そのまま手を引いて花火の見えやすい小高い丘へと連れて行っただろう。
そして満天の星空が広がる丘につくと、適当な位置に場所を決めて二人で座り。
白い息を吐きながら、持参した水筒からコップに暖かい飲み物を注いでエリアに手渡す。


「……もう一年も終わりか。なんだか早いね。
エリアにとってはどんな年だった？」

「僕は…色々あったな。
研究所の外の世界に出たり、一揆に参加したり、思わず成長しちゃったり」


思い出しながら少年がくすくすと笑う。


「でも振り返れば楽しいことばかりだった。
吸血鬼には出会えなかったけど、エリアと夏に肝試しもできたし、今もこうして花火も一緒に見に来れたし」

「……これからも楽しいこといっぱい共有できるといいね。
できれば来年も、再来年も」


星空を見上げると目を閉じて言い。
それは少年の願いというよりは祈りに近いものだったかもしれない。
ちょうどその時、どーんという打ち上げ音の後に夜空に大きく花が咲く。


「———わぁ、綺麗だ！」


少年が花火に目を輝かせながら隣に座るエリアの顔を見て微笑み。


「メリークリスマス、エリア」
それからルリアンナさんはお誕生日おめでとう」


くすくすと楽しげに笑うとエリアが寒くないようにと狼の姿になって彼女に寄り添うように座り直し。
そして花火が終わるまで言葉もなく冬の夜空の饗宴を楽しんだことだろう。


————凍てつく空気もどこかほんわりと暖かく感じる、そんな冬の日の夜だった。




【エリアさん(143)をお借りしました。いつもありがとうございます！】

　
　　四つ子が汽車ゴッコしながらついてきた！

（そう言いながらリオンさんの後ろに回り彼が許せば後ろ髪をまとめようとした。
　チョコレート色のシンプルリボンが髪の毛をまとめている。）

（小箱を手のひらに載せようとした。中にはギッシリとチョコレートが入っている。）

じっとリオンを見上げ、彼の言葉を聞いていたイリスは静かに紡いだ。

そして彼女が真っ先に気にかけたのは彼や己の思想ではなく、何よりもリオン自身の体調だった。彼の言葉や常識はずれの成長に、何かしらの負荷がかかっているのではと懸念したのだろう。

迷っているのかという問いに彼女は臆すること無く返した。事実そうなのだから戸惑う必要など何処にもなかった。

改めてイリスはリオンの海色の瞳を見つめ返して、彼へ質問の言葉を投げかけようとしたのだが……。

それはリオンのプレゼントに遮られることになる。

だが悪い気はしなかった。彼の差し出した贈り物の品は、思わず表情が綻んでしまうほど素敵な品だとイリスには思えたのだから。

質問は、もう少し後回しでも。

そんなことを考えながら、イリスはリオンにそんなお誘いの言葉を投げかけた。

声は聞えていない。何一つ、その身体に、行動に、反応は示さない。
刃を振るう相手を選べばただ切りかかり、奪えるものがあれば奪い続ける、……メルンストゥーラの面々と合流し、奪い尽くした金品を持ち何処かへとまた消えていくだろう。
黄金色に輝く夕焼けに包まれて。

……彼、に斬りかからなかったのは、その時の獲物ではなかったからに過ぎず——。存在の、認識すら、行われず。

けれど、一人残された彼の耳元で、空の上で、頭の中で、……或いは、何処でもない場所で。
声が、する。

響く声は淡々と、相手にとって訳のわからないであろう説明を続ける。
声は女性のもの。大人のもの。あまり声の通りはよくはない。滑舌もよくない。
それでも一方的に、姿も見せずに語り続ける。

彼にしては珍しく、ぽつりと呟いて。

（クッキーの包みを口にくわえて、リースは頭にのせてもらい）

地面から手の高さまで、どう見ても60㎝くらいしかない。

手に持った箱からいい匂いが漂っている！
これはフライドチキンのセットだ！きっと骨付きだぞ！

あれくらいおっきくなるの？と、指差すのは軽く10mは超える木。

ちょっと寂しそうな笑いを浮かべる。

リオンの言葉にえへへ、と微笑み、ちょっと頬を赤らめて。

突然渡されたプレゼントにわあ、っと驚きを隠せない様子で動揺し、きょろきょろしながら。

クッキーは早速袋を開けて一口。

ごそごそと懐を漁ると、白地に赤と金色の飾りの描かれたカードと、星型の透明の固体が個別包装された子袋が出てきた。
クリスマスカードと、星型のキャンディらしい。

　ここ、と喉を鳴らすように笑いながら、御猪口にそっと酒を注ぐ。
　自身は枡をあおりながら、しばし風流に思いを馳せて。

　わずかに不機嫌な表情を造り、ふて腐れたように肩をすくめ。

　主の事を選べて良かったと云う小狼の表情を、微笑ましそうに見た。
　ただ、わずかな引っ掛かりを脳裏に覚える。
　その正体が解らない内に、リオンから問われた言葉に思考が埋められた。

　馬鹿な男よと、だが幾許かの甘酸っぱさを漂わせた声でなじった。
　これだけでも、鼓という狐が最初の主を本気で嫌っていないことは伝わるだろう。

リオンはクッキーの入った袋と白いマフラーを取り出し目の前に差し出してくれる
しかし、シエラはそれを受け取らずに彼の瞳を見つめた

「なぜ盗賊になろうと思ったのか」

リオン以外の何人にもこの手の疑問はぶつけられた
その度にシエラは「生きるため」「恵まれている奴がむかつくから」「自分の憧れ」
と好き勝手に答えてきた

略奪が跋扈し、横領と贈賄が繰り返される土地に育った彼女にとっては
盗賊という生き方はそれほどおかしな選択肢ではなかった

盗賊団が壊滅し、国の外に出ると他の選択肢を多く見せつけられる
農場での仕事・製作者としての仕事・傭兵としての仕事

自分に憧れてくれる人を傷つけてまでその刃をふるうことに意味はあるのだろうか
そんなことをしなくても自分は十分生きていけるじゃないか

でも……

捨て無い限りは憎しみの連鎖であっても繋がっていられるから
捨ててしまえば過去は消えて無かったことになるから

そういったシエラの顔は何かを堪えるような諦めるような表情だった

（あたしみたいにね、と肩をすくめて）

（僅かに間を空けて）

（どうやら何かいろいろあるらしい。それからはっとなって咳払いをして）

　顔を覗き込まれ、その中性的な顔立ちに女の子の方が良かったか？と問われると、一瞬身体が身構えてしまい後ろに後退ってしまう。が、それを誤魔化すように両手を咄嗟に胸まで上げると、違う、違うと否定するように左右に振ってみせた。
　そしてぽつり、と実は女性が苦手なのだということを、少し視線を泳がせながら明かすだろう。

　驚きの表情を見せるリオンに、だろうなぁと少しだけ笑う。
　一揆に巻き込まれてしまった理由を語っていくうちに、両親に呼び出され一揆に送り出された“あの日”を思い出して、その表情には恐怖の色がチラついていたものの、それを隠そうとあくまでも口調は明るいものだっただろう。

　「好戦的なモンスターやエンブリオも多いが、自分の身を守るために戦ってる奴らも多い気がするんだ」
　そう言葉を続けると、そんなモンスターたちを傷付けなければならない、傷付けてしまっている自分に対して湧いてしまう罪悪感に自然と眉が悲しげに八の字を描く。

　素直に握り返してくれたリオンに少しほっとしたのも束の間、握られた手をそのまま取り上げられ、更にはじっと見つめられてしまい、何だ何だ？と不思議、不安な気持ちが渦巻く。けれども相手の手を払う、という選択肢は浮かばすに、ただじっとされるがままに身を任せていようか。

　と、漸く手が開放され——

　差し出されたオイルの入った小さな瓶と、美味しそうなクッキーの入った袋を交互に何度か見た後、本当にいいのだろうかと不安そうな視線をリオンに向ける。
　物をあげることはあっても、貰うことは中々無いらしくちょっと戸惑っているようだ。——けれども、

あなたのしっぽを触りながら、質問に一つずつ答えていく。

あなたのしっぽをみて、うらやましそうに言う。

けど、と続ける。

　　四つ子が一斉にちょこまかしはじめた——