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　随分、間が空いてしまった。
　折り返し地点に達したところで、ひとつ状況を整理しておきたいと思う。

　前にも語ったことだけれど、この話は最初から最後まで、私、【一条朝霞】の物語だ。
　私はメルンテーゼにはいない。時間軸で説明するならば、すでにこの世にいない過去の亡霊となる。
　同様に、当神社期待の新人"男の娘"バイト巫女【澤谷千里】さんも、実際の処メルンテーゼには何の関わりもない。

　関係あるのは、【鼓】という名の妖狐だけ。
　だけど、メルンの彼女は黄金に近い夕焼け色の髪、姿も大人に近い少女で紫の瞳を持っている。
　それに対して、こちらでは白銀の髪と赤い瞳を持ち、なにより私に憑依している精神体なのだ。
　理由は知っているけれど、私の物語にはまだ関係してこないので説明は省く。

　登場人物としては他に、私の兄であり当神社の宮司でもある【一条郁未】。
　実姉ではないけれど大事な家族である、七姉こと【白河七瀬】。
　まだ名前しか登場していないけれど、連続通り魔事件７番目の被害者【天城明乃】。
　ちなみに七姉と天城さんは、千里さんと同級生でクラスメートだったりする。

　それから、鼓さまの眷属——本来は違うのだけどあえて眷属とする——が、数匹。
　鼓さまに唆されて千里さんが探しにいった、【燈】なる赤毛の仔狐。
　七姉と行動をともにする、【柩】なる黒毛の仔狐。
　違う物語で名前は出ているけれど、こちらでは登場していない【調】なる金毛の仔狐
　同じく、登場はしていないが既に"居る"、【綴】なる銀毛の仔狐。

　そして物語の背後に潜む、通り魔事件の主犯格【獅噛童子】なる"鬼"。
　千里さんのお姉さんを含む事件の被害者達もいるけれど、関係者は概ねこんなところだろう。

　始まりは、七姉にバイトを斡旋された千里さんが、当神社にやってきたこと。
　話には聞いていたけれど、巫女装束がすごく似合う男の子だった。（ここ大事）

　明かしてしまうならば、彼は鼓さまと兄と七姉が共謀して選んだ"生贄"だった。
　もちろん、七姉が抜けている間のバイトとしても、貴重な戦力ではあるのだけれど。
　その七姉は事件の進行を防ぐべく、各地に妖発見の仕掛けを施したりと暗躍中。成果は出ていない。
　兄は地域住民の顔役かつ、祭祀系の識者として、警察や地元有志の青年隊に協力している。

　当神社の神使でもある鼓さまは、私に憑いている。
　本当の私は、ある呪いのせいで病弱で、動くこともままならない状態で。
　だけど鼓さまに憑依してもらうことで、快活に動ける身体に見えているのだった。

　現在、神社を中心とした半径10km弱の圏内で、通り魔事件が発生している。
　襲われているのは女性ばかり。鋭利な刃物で長髪をバッサリ切り取られる特徴がある。
　しかし、髪以外目立った外傷は無いのに、全員が昏睡状態にに陥っていた。

　被害者は、物語開始時で三人。今では、六人になろうとしている。
　その六人目の被害者が千里さんのお姉さんだと判明するのは、もう少し後の話だ。

　千里さんは、私達の"ある目的"のためにバイトという形で、この神社に寄越されていた。
　なのに最初から何か気づいている節があって。兄との会話では驚くほどの冴えを見せ、状況を推測してくれた。
　加えて、燈が彼に見つかった。普通の人には"視"えないはずなのに、見られた。あるいは、見せた。

　度重なる予想外の展開に心動かされた鼓さまが、私の身体を乗っ取って、千里さんと会話を交わした。
　燈を探せ、と。
　彼が燈を捕まえることが出来たならば、違う結果を目指すのも悪くないと考えたらしくて。

　その結果、千里さんはバイトの傍ら、ずっと燈を探しまわっていたという。
　見つけて、追い駆けて、その先で、事件に巻き込まれる。

　ここまでが、いままでの、話。

　無理を推して神社を濃く覆っている結界の外に出た、鼓さま。
　燈の鳴き声に導かれて辿りついた先で、身体中を血まみれに、呼吸も停止しかけていた千里さんを見つけて。
　命を失わせない為には、ある"決断"をさせるしかなくて——。


　そんな、物語。

　ここではない世界。ここではない時間。ここではない場所を舞台に語られる、"私達"の物語。


　なぜメルンテーゼに関係ない出来事が、ここで語られているのか？
　……機会が巡ってくれば、いつか伝えることも出来るだろう。

顔を真っ赤にして否定している。

気をつけの状態でずざざざーっと後方へ後退りするエリア。

おろおろしている！

ぬくもりに全く覚えがないが遊びだったのかとまで言われて言葉が出てこないエリア。

女子と間違えられる容姿が故に悩むことが多いようで不満そうな顔をする。
心配しなくてもいい、と言われて何事もなかったと内心安堵する。

何か思い出すことがあるのか言いよどむ。
相手の表情を余り見ている余裕はないようで。

うまく言えずにあわあわと、落ち着かない素振りで矢次早に喋っている。
相手に悪い気を与えてしまうのを気にしているようだ。

神を深く信仰している、というような感じではない。
どちらかというと教科書に書いてあることを説明しているような感じで話をしている。

小さい頃になにかあったのだろう、うつむき気味にしょんぼりとしている。

相手がふわりとしっぽを揺らしているのを見て、うれしそうにあめ玉を転がす。

何やら色々裏があるようだ。
とても鋭い感覚を持っている人なら、気を澄ませば気配を少し感じ取れるかもしれない。

楽しそうにしっぽが動く。

何処かから小さめの琵琶を取り出し、音を立てながら。

ちょっと、いや結構残念そうに肩を落とす。遊びと割り切っているが故に躊躇がないのである

さも当たり前のように受け答えする

自分の攻撃を食べ物にされる悲しさは知ってるはずなのに

フェウの方はすでに顔を赤くしながらもしっかりとした口調でつらつらと語る

ちなは酒のせい以上に顔を赤くして涙目である

覗きこまれた瞳。深く、黒紫に染まるそれは、鏡のように狐を写す。

ぽりぽり、と顔をかきながら

くっくっく、と、また笑いが聞こえた気がした

不安げに空色の瞳が揺れ。

くすくすと楽しげに言うその表情からは、そんな日が来るかもしれないなどという心配はまったくしていないように見える。

ツヅミの言葉にゆっくりと頭を横に振り。

身を乗り出してツヅミの言葉の先を促す。

残念そうな視線を中の人にも注ぎつつ、少し不安げに問いを重ねる。

さらりと世間話をするように言い。

得意げに鍛錬で鍛えた二の腕を差し出して見せ。背丈もまた少し伸びたようだ。

でも嫌いじゃないんだね、とツヅミの表情を見てくすりと微笑む。

別にそこは隠す必要もないだろうと素直に答える。
ホケン・ジョーの研究所から逃げ出したところをメイアに助けられた。
……表向きはそういうシナリオになっているから。

くしゃくしゃと撫でられながら気持ち良さそうに目を細める。

また新たな主でもできたなら、あるいはホケン・ジョーのことでツヅミと争わなくても済むかもしれないなと、ぼんやり思い描きながらそう呟き。

ツヅミの言葉に軽く眉根を顰めつつ質問した。

……そうして一歩離れたのを見ると、暫し考えるように視線を宙に彷徨わせた。

うんちゃんの耳をふさいで頑なに首を横に振り続けている。

ただし極めた職人は漏れ無く早死していますが、と肩を竦めた。

ただ、一筋縄じゃ行かなさそうですね、とおどけるように軽く肩を竦めてみせる。

背中を叩かれ、苦笑を浮かべながらもツヅリを見下ろした。
言葉に出さずとも何らかの気配を察したらしく、苦笑が微笑へと変わる。

ケッ、と火の粉を吐いて改めてツヅミを見上げる。
その視線は好色な物よりは、見定めようとするかの様な慎重なもの。
そうして暫く黙っていたが、煙草の煙でも吐くように白煙を溜息とともに吐き出して、

双眸を細めて狐を見上げる視線は、その先に鍛冶師を透かすかの様だ。

（ふと、何かを思うような表情を見せて）

（そうして、唐突に目の前に繰り広げられたイリュージョン。妖精はもちろん、珍しく女も目を瞬かせて驚いたような表情を見せて）

（きょろきょろとあたりを見渡して、戸惑った表情を見せた。興味は満点。）

ツヅミに対してこのように表現すれば、俺自身もその類だろうと言われそうな気もするが。
それもまぁ…悪くない。
他の奴ならいざ知らず、ツヅミにそう言われるのは…不思議と、心地良ささえ感じられることもあるからだ。

火照ったツヅミの顔を不思議そうに見つめている。
顔が見えなければ、覗き込むようにするだろう。

同様に肩を竦め、笑い。

頼むように言ってみせる。

そう。面白ぇ奴。少なくともこの感情は今まで一度も揺らいではいない。
ただ、『面白い』という感情の先にある想いが何なのかが……よく分からない。
とはいえ…それは世間一般で言う『好意』なのだとは思うが。
『好意』とは、何なのだろうか。

遊び道具として？
友人として？
恋人として？
…思考を巡らせる。それでも、結論は出てこない。
そもそも、これらの違いとは何なのか。
ただ単に、相手をどう称するかの違い？　…いやいや、流石にその程度の代物じゃないだろう。
ならば、世間からどう見られるか？　…重要なのは当事者達の方だろ？
結局、自分が相手のことをどういう風にしたいのか…ということなのか？
どういう…風に…。

ツヅミの細かな動作に気を配る余裕が…今はない。
とにかく、自分の意思を定めろ。そして、それを口にしろ。
……本能が、そのように訴えている気がしてならないからだ。

…とはいえ、現状を疎かにする気もない。
ここで手を離してしまえば…もう二度と掴むことが叶わない気がする。
そんな予感も、同時にしているから。

激しく口付けをされれば、彼女を強く抱き寄せる。
可能な限り彼女に刺激を与え続け、俺という存在を刻み込む。
彼女が今、何を考えているのかは分からない。
…考えても分からないことは考えるな。自分に正直でいよう。
そうとも。俺は元来…生粋のエゴイスト。
求めたいもんを求めりゃ、それでいいんだ。
離してなんかやるもんかよ。

ああ、そうか。そういう…ことか。

涙を流す彼女を見つめる。間に合って…よかった。
もしもう少し早くこんな対応を取られてたら、俺は言葉に詰まっていたかもしれない。
だが…今なら分かる。言いたいことを…言える。

今一度強く抱きしめ、胸で存分に泣かせる。
構わねぇさ。こんなモンでよけりゃ、好きなだけ使うといい。

抱きしめる力を維持したまま、ツヅミの顔を俺の顔の方に向けさせ。

精一杯の想いを、紡いだ。

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手の甲に口付けをされれば、わたわたと困惑し始める。

そんなことでは無意味だ、と言いたいのだろうが。
もはや言葉になっていない。

沈んだ口調で語る。
特定の面においては、シオンはハルに対する不信感も抱きつつあるのかもしれない。
或いは、単純にトガノのことを心配しているだけなのかもしれないが。

シオンが何を根拠にそう思ったのかは口にしない。
程なくして、シオンはゆっくり、丁寧な口調で説明を始めた。

ツヅミの慰めに対しては、暫し無言を貫いていたが。
やがて小さく頷くと、その涙は収まっていき。

小さく一礼し、微笑んだ。