たいようにこいをしたおとこのこが、ひまわりになるお話。

昔、絵本で読んだのよ。



＊

＊

＊



　孤児院には小さな花畑があった。
園芸を趣味としていた院長が、季節折々の花を植え、育て、咲かせていた、小さな花畑だ。
畑と言っても広さはちょっとした庭くらいで、子供が遊ぶのには丁度良い広さだった。

　ルカは、花の手入れをする院長に付いて回って、よく手伝ったりもしていた。

　この庭が好きだったのだと思う。

　同じくらい、院長のことも好きだったのだと思う。



「夏も終わりか」

　声に顔を上げると、院長がルカの隣に腰を下ろし、目を細めたのが見えた。
　院長が細めた目で見据えていたのは、庭に咲いていた背が高い、葉の大きな、黄色い花だ。
夏の訪れより少し前に蒔いた種が芽を出し、日差しが強くなるにつれ、大きく育ち、大きな咲いた花だった。

　ひまわり、という花だ。

「ひまわり、枯れるの？」
「ああ。 じきにな」
「……ひまわり、どうなるの？」
「枯れると種ができる。 また来年蒔けばいいさ」
「……そっか」

　花は咲きこそすれ、遅かれ早かれ、いずれは枯れてしまう。
それを知らずに、咲いていた花が枯れてしまったのを見て、病気になっただの何だのと大騒ぎして、大泣きした時、教えてくれたのも院長だった。

「コルザが、向日葵はルカみたいだと言っていた」
「ひまわりが？」
「ルカは向日葵に似てるんだと」
「……オレに？」
「あいつ、たまに変なこと言うからな」

　ひまわりという花は、照りつける太陽の下で大きく咲く花だ。
太陽の動きにつれ、その方向を追うようにして、黄色い花弁をいっぱいに広げて、咲く花だ。
　自分よりも、院長よりも背の高いひまわりが、自分のようだと言われても、ルカにはよく分からなかった。

「ルカの髪は、ちょうど、向日葵みたいな色だからかもな」
「そんなに似てる？」
「それを言うなら、コルザもか」
「……オレ、あんなに背ぇ高くないよ」

　院長が、かぶっていた麦わら帽子をルカにかぶせる。
つばが広く、子供がかぶるには、やや大きなそれは、ルカの視界に影を落とした。
　帽子の上から、ぽんぽん、と、軽く、やさしく、頭を叩くのは院長の手だ。

「コルザが言ったのは、そういうことじゃなくてな」

　見上げようとして、出来ない。
　大人の掌が帽子を、頭を押さえつけていて、できない。

「……俺はな。 多分、別の理由だと思う」
「？」

　大人の考えることは、むずかしくてよく分からない。

「……まあ、何だ。 あいつ、たまに変なこと言うからな」

　また、だ。
　ぽんぽん、と、二度、頭を叩かれたところで、漸く、顔を上げることが叶う。

「……ルカは、おひさまが好きか？」
「うん！」

　笑顔だった。
　屈託の無い、日差しのように眩しい、まぶしい笑顔だった。

フィンが自分たちへ投げかけた言葉に、少し身を硬くしつつも。

子供が三人集まったところで、危なっかしいことに変わりは無いらしかった。
声を掛けてくれたのが、自分達の前を行く、二人だった。
アリシアの様子を、シズが気に掛けている、その隣。
二人の後ろに付いて歩きつつ、ルカは目の前の、大人の背を眺めながら、考える。

自分よりずっと背の高い、大人の後ろ。背。
二人と出会ったのは、この世界が初めてで、それ以前に出会ったことは無い筈なのだが。

くるり、共に付いて来た少年少女の方へ振り返り。

見ている分には微笑ましい。隣にいるシズの反応を見て、何か察したように笑い掛ける。嗚呼、ちょっと大変そうな。

親しまれた略名がそうなら、そう呼ぶべきだろうか。
そして、それから問われるルカの言葉、問い掛け。

自分に向かってゆるい笑顔を向ける少年に、自分も同じように笑ってみせる
鳥という言葉に反応すると、アールも空を見上げた

少年に教えられ手元の箱を覗いてみると、確かに木の実のようなものが
淡く見えるような気がしたが、アールも初めて見るもので首をかしげた

すぐ横をすり抜けた鮮やかな金色。
振り向いた彼は、きらきらと輝く笑顔で。

話しかけられた事を一瞬わすれ、少しの間ぼうっとみつめる。

落ち着かせるように　目を閉じて言葉を選び、
ふわりと微笑んだ。

開かれた手のひらに、ひらり、花弁をもう一枚。

きょろきょろと辺りを見渡す青年に急に声をかけられた
最近どうにも、こんなことがよくある

とりあえず、立ち止まって、正面で相対する。
何かされた時の備えなのだが、腰が引けているのであまり役には立ちそうにない。

どうやら、今回も違ったらしい

そして、おそらくそれは関係ない