—きっとまた会えるだろうから。


黒い光はそう言った。
そしてその言葉通り、黒い光が引き連れる人狩りの一味に襲われた。

幸いこの本には傷一つない。
傷がついたところで修復魔術は仕込んであるけれど、発動しないに越したことはない。
人狩り程度撃退できないようなら用はないと思ったけれど。
まあ、暫くはこのまま契約続行でいいだろう。

気になるのはあの男。
赤い右目をぎらつかせていた骨の男。
以前ギーと話していた時にはあれほど粗暴で饒舌だったのに。
あれほど強い殺意と衝動と怨念を撒き散らしていたというのに。

あれは最早、傀儡だ。
きっと《躾けられて》しまったのだろう。

やはり、《首輪》はいけない。

傀儡は扱いやすいけれど、面白くない。
手駒に面白味を求めるかなんて、それこそ飼い主次第だけれど。
隣に立つギーの頬に黒い手で軽く触れる。道化のような涙型の化粧をなぞる。

不機嫌そうな声が返ってくる。
その化粧は醜い傷痕を隠すため、本当にそれだけだろうか。
君はその化粧で何を覆っているのだろう。
何を取り繕っているのだろう。

《首輪》はいらない。
けれど、《鎖》は必要だ。それもとびきり柔らかい、真綿のような《鎖》がいい。

きっと君はあの骨の彼に少し、思うところがあったのだろうね。
もしかして少し、似ている、なんて思っていたのかな。
そしてその彼がああなって、今何を思っているのだろう。

ギーは鬱陶しそうに手を払いながら、そう答えた。

信用に足る答えではない。
私が知っているのは、この男は目的の為ならどんな犠牲も厭わないということだ。

でも、それでいい。
そうでなくては愉しくない。





どうせ何時までも使われているつもりなんて、ないんでしょう？









(狂骨殿には悪いけれど)
(僕は今の君のようにはなりたくないのさ)

ブルートは妻を自らの背後へと隠した。

少し申し訳なさそうに頭を下げると、身なり確認する相手をじっと見据ている。

ふ、と小さく微笑んで、ブルートは妻の方へ視線を移した。
その先では、彼の妻が楽しそうに口元をふんわりと緩めている。

ブルートの妻は、くるくると跳ね回っているドロテアの
桃色をした前髪を、その義手の指先でそっと整えてやる。

妻とじゃれ合っている少女の脚を見つめ、
ブルートは口元に人差し指を添えてふむ、と考え込む。
その目は先程までと違い、真剣そのものの様子だ。

ドロテアの顔を覗き込んで、ブルートの妻はうっとりと笑う。
ブルートもそのかわいらしい少女の頭をやさしく撫でて、仮面の下の眸を細めた。