「どうなるかしら、ＤＡＩＧＯ」

　少年のエンブリオの一人、艶やかな黒で身を包むシズカが赤い瞳を細めながら小さく呟く。

「リベンジのことですか」

　シズカの独り言を拾ったのは対照的に白毛の美しいユニコーンのセレス。
　この一人と一頭は、最初こそ仲がよろしくなかったが、いつの間にかシズカが上位に立つ形で
対立関係は終了していた。どうもシズカが弱味を握ったらしい。

「そうね。でも気にする事なんてないのに、あなたがＤ」
「Ｄ、そうですねＤＡＩＧＯがどうかしましたか。あとモノローグに反応しないで下さい」

　さえぎるように問を重ねるセレスに、シズカは小さく微笑んだ。

「ほら、先の戦闘で負けちゃったじゃない、アキトが」
「それはそうですが、負けるだけならこれまでもたくさんありましたよね。闘技やら対人やら」
「そうね、うん。でも今回は、ね」

　タイミングが悪すぎた、とシズカが楽しそうに笑う。
　先程シズカは、少年におそるおそるナイトスピリットのことを打ち明けてきた。
　これは予測に過ぎない、と前置きを置いてから、少年に呪いの一種がかけられたこと。
　その呪いとは、少年の基本座標を本来の世界からメルンテーゼに上書きするものだということ。
　つまり少年は、今完全にメルンテーゼの住人になっているということ。
　急にグラが懐いたのもそれなら道理が通るでしょう？と付け加えると、少年も納得したらしい。

「そういえば、アキトの方はどうでした。見たところ無事生還できたようですが」
「あなた、彼の事何だと思ってるの。彼は女性には決して手を上げないわよ」

　少年は誰かに八つ当たりしたり、重いものを他人に分けるのを嫌っていた。
　だからナイトスピリットの件はとても不安だった。ストレスを溜め込んで悪い方向に
行かなければいいのだけど、とシズカは自分に出来そうなことを探していた。
　が、それも杞憂に終わりそうだ。

「アキトの鬱憤、ＤＡＩＧＯが全部受け止めてくれるわ」
「それ……八つ当たりでは」
「大義名分、って素敵よね」

　ＤＡＩＧＯの戦闘で、少年は最も嫌うミスを二つも踏んでしまった。
　一つは武器を持つ手を緩めたこと。
　もう一つは、それによって仕留め損ねてしまい、守るべき女性もろとも倒れて全滅したこと。
　少年が剣を持つようになったのは、父に「母と娘を守る術を持て」と頼まれたからだ。
10年以上握っていた剣も、剣を握っていた理由も、ＤＡＩＧＯに砕かれてしまった。
　少年が築き上げてきたものをここまで傷つけられたのは、これが初めてかもしれない。

「さっきのアキト、闇堕ちするんじゃないかってくらい自分に憤ってたのよ」
「闇堕ち……悪くないですね」
「楽しみね、彼が今回の件をどんな風に糧にするか」
「或いは、どう駄目になるか」
「そうね。ＤＡＩＧＯはとっても硬いから、また負けるかもしれない」
「そうなると、ＤＡＩＧＯ×アキトなんですか？まぁ、あぁいう口下手なｎ」
「わたしあなたがなにいってるかわからないわ」

「まぁ、アキトが勝つわよ。きっと」
「そうなんですか」
「だって、タイムリーすぎるじゃない。オルトロスのLv25スキル」

　ＳＴＲを敵から奪取する「ウルティオ」、何処かの国の言葉では「報復、復讐」を意味する。

「私は、アキトがスッキリするなら何でもいいわ。ナイトスピリットのことも一緒にすっきりしちゃえー」
「えぇ、早くスッキリしてほしいですね。最近ブラッシングあまりしてくれませんし」
「あ、それは今オルトロスを絶賛可愛がり中だから、仕方ないわね」
「えっ」
「アホの子可愛い、と」
「…………」
「あなたから知性を取り除いたら、後はもう何も残らないと思うの」
「分かってますよ。3のときだけアホになればいいんでしょう？」
「そのネタ、古過ぎない？」

　

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