エルは混沌神の出した謎を解いていく。銀色の空間の中、輝く霧の中、エルは立ち上がった。エルの周囲を周回する流星も、彼の移動に合わせて動く。エルは一歩踏み出した。そしてまた一歩。

「なんでまたこんなややこしいことをしたんだか……」

　鍵を一つずつ破壊していく。混沌神の心へと侵入していく。不意にエルの周囲に幾人もの子供が現れた。男女数名の子供は白く装飾の無い服を着て、顔にはやはり白い垂れ幕を被せている。表情は見えない。
　子供たちはエルの周囲をぐるぐると回って走り続ける。彼らはランダムに、それぞれ勝手に話し始める。

「だって面白い話なんだよ」
「ぜったい読んでほしいよ」
「エル、君は魔法実験の失敗で僕の心に触れてしまったんだよ」
「僕は君にお返しをしたいと思っていたんだ」
「干渉には干渉で返す、それが僕の流儀さ」

　エルはこの混沌神のことをよく知っていた。面白いと思ったら、何でもやる。トラブルメーカーだ。エルの世界では、「また混沌神の仕業か……」とでも言っておけば大体当たっている。
　この子供たちは混沌神の化身だろう。原因は分かった、経緯も分かった。しかし、なぜ混沌神がこの物語を選んだのか、それが最後の謎となって残っていた。

　最後の鍵、それはミズリィの身体を縛る鎖。その錠前となって現れた。非常に巨大な鍵である。流星を何度かぶつけてみるが、びくともしない。

「全く、誰の物語なんだか……」

　自分の力では、解けそうになかった。非常に高度な魔法障壁。エルは、何度も解錠を試みる。この鍵を破壊せねば、エルはこの閉鎖空間からは出られない。


***


　デビルはエルの目の前に、びっくり箱を差し出した。

「ご主人、我の魔法を見てほしい」

　そう言って、びっくり箱のふたを開ける。デビルはびっくり箱に不確定の魔法をかけた。何が起こるか分からない。それだけ、この魔法を制御するには高度な技術を必要とする。びっくり箱から、七色の光が飛び出す！

　エルはそれをじっと見ていた。驚くそぶりは見せない。眉ひとつ動かさず、ニヤニヤと笑っている。七色の光は、やがてボールのように弾み、地面に激突した。そのまま光は弱くなり、何かの形を作っていく。

　光の塊は、やがて一人の少年の姿に変わった。それは幼き日のエルの姿だった。エル少年は床に紙を広げて、何かを描いている。上機嫌に、話を綴っている。そのタイトルこそ……。

——『しゅるけーのぼうけん』

「俺の考えた物語だったのかよ！？」

　そう、その瞬間、エルは驚愕した！　牢獄の中のエルと外にいるエルが初めてシンクロした！　デビルの背後で巨大な火柱が上がる。鏡の立方体が爆発したのだ。鍵は全て解錠した！

——こうして、混沌神の仕掛けた凶悪な『黒歴史暴露大会』は終焉を迎えた。