エルは閉ざされた銀色の空間の中で座っていた。輝く空気が視界を遮り、他には何も見えない。エルは罠にはまったな、と思った。誰かがくすくすと笑っている。何かの存在を感じる。

「例の混沌神か……確かにびっくり箱だったな。あーびっくりした」

　棒読みでエルは呟いた。混沌神は試している。ここからどうやって脱出するか、エルを試しているのだ。エルは真実が近くにあるのを感じる。調理場で見つけたミズリィの集団。あれはミズリィをここへ移動するときに、起きた事故。

　鍵が解かれていく。

　エルの魔力が前回に発せられる。ここは混沌神の胎内なのだ。意識に侵入するように、混沌神の意識へと介入していく。そのルートは開かれていた。ただ、幾つもの鍵がその間にあった。それを開けてみよ、というのだ。神は、エルを試している。

「ミズリィが近くにいるんだね。彼女を連れて帰れってクエストかい。ご丁寧に意識を分割して隠している。子供だましだね」

　鍵が、また一つ弾けた。

　ミズリィはいったい何なのか。その向こう側に、悪霊が見えた。いつもニヤニヤ笑っているはずが、いまは悲しそうな顔でこちらを見ている。秘密が、解かれていく。悪霊は、言葉を失っていた。いまならその理由が分かる。何故悪霊と入れ替えで、小人のシュルケーや女子高生のミズリィが現れるかも。

　鍵が、解き放たれていく。

「シュルケーは悪霊さんの考えた物語だね。悪霊さんは物語を失っていた。悪霊さんが新しい物語を考えたとき、シュルケーは現れるんだ」

　複雑な魔法パズルを解き明かすたび、次々と新しい情報が溢れてくる。これは混沌神とエルの魔法合戦なのだ。混沌神はエルの周辺に怪奇現象を起こし、エルの好奇心を刺激した。それを見て、混沌神は笑っていた。楽しんでいたのだ。

——鍵が、また一つ砕け散った。