とにかく頭がこんがらがりそうだったので、エルはミズリィに一気に質問はせず、日常で触れ合う中で彼女の謎を解き明かそうとした。ミズリィ自身もまた、エルの言動にどこか不安になっているようにも感じられたからだ。

「エルー！　朝ご飯できたよー！　エルの好きなネギ塩スープだよー！」

　いつの間にかミズリィが調理担当になっていた。エルが魔法で食材を出し、それをミズリィが調理する分担だ。

「君は料理がうまいね。このまま全部任せたいくらいだよ」

「料理はあなたが教えてくれたんだよねー」

「なるほど、どうもそういうことらしい」

　ミズリィの存在はかなり安定しているようだった。少なくとも、以前の悪霊のようにいきなり消えたりするようなものではない。彼女はエルのお古の詰襟をきて、黒いスカートを身に纏っている。見慣れた赤く長い髪は頭の後ろで縛って編んでいた。こう見ると彼女もかなり女子高生っぽい。

　エルとミズリィはいま山岳地帯を攻略している所だった。草木の生えない赤茶けた山肌がどこまでも続いている。滑落しないよう注意して、一行は山の尾根道を歩いた。

「ところでミズリィさんよ、一つ聞きたいことがあるんだが」

「なぁに？　セクハラ質問以外だったらなんでもどうぞ」

「そんなに飢えた獣じゃないよ……」

　ふと、エルはひとつ気になったことを質問した。彼女は自分のことを悪霊ではないと言っていた。ならば、シュルケーはどうだろうか？　あの親指サイズの小人……よく似た、赤い髪をしていた。シュルケーは何でも不思議なことを知っていた。

　シュルケーの性格とミズリィの性格は似たようなものではない……しかし、意外な所で繋がりがあるかもしれない。それが悪霊とシュルケーの交代劇……たまに入れ替えるという不思議な現象を説明してくれることを期待した。

「シュルケーって言う女の子を知らないか。親指サイズで、赤い髪をしているんだ。僕の知らないことを何でも知っている。シュルケーを知らないか？」

「えっ、なんで、いや、は、恥ずかしい！！」

「ま、まさかのセクハラ質問！？」

「なんでシュルケーのことを知ってるの、やだ、恥ずかしいじゃない……」

「その反応だと、彼女のことを知っているようだね、教えてくれないか」

「何でエル君が知ってるの……シュルケーのこと、話したこと無いのに。シュルケーは、私が秘密に書いた物語の主人公だよ」