朝がきた。
…ような気がした。

目を開けても瞑っていても変わりない黒。


今度は、何がなくなった。
あと何が残っている。

ああ、声はまだ残っている。
声だけがまだ残っている。


「────はよ、火流舞」
「──────────────。」


きっと想像するにいつもの通り
けたたましい声を上げているに違いない。

ぎぃぎぃと耳障りな声が懐かしい。

「腹減ってね？何か狩りにいくか」

痛覚は真っ先になくなった。
ただただ動かしづらく…油の切れた絡繰人形のような心持で
鬼は起き上がり、彼女に手を伸ばした。

有難い事に餌にだけは困らない。
目的を同じくした同士が集まりやすいこの世界では
少々歪な姿であろうが許容される。

昨日も、顔も声もわからない集団に紛れて火流舞と共に
何かを狩った。
その何かは数だけは多かった気がする。

肉の感触がいち、に、さん…
たしか何かが八匹いた。

全部彼女が喰ったような気がする。

一匹は、抉って
一匹は、千切って
一匹は、燃やして
一匹は……

顔にかかる血が不快だった。
嗅覚も味覚もなくなった今、血や肉で興奮する事もなくなった。

抉って、裂いて、舐めて、噛んで
命乞いする人間サマの顔を見て喜んで犯して喰うのが喜びだったのに。

ただただ気持ち悪かった。

気付けば腹も空かなくなった。
今は彼女に喰わせるためだけに生きている。

「───よう、初めましてコンニチハ。まああれだ、適当によろしく頼むわ」

今日も誰か何か解らない奴らに紛れて
何か解らない何かを狩る。

小さく　小さく　口遊みながら
彼女のために歌を贈る。
声が出る限り、彼女のために歌をうたう。

…ああきっと今、何かわからない目玉を抉った気がする。
何だろう、これはきっと何かの左腕。
何だか体中が濡れた気がする。

「──────俺の歌、すき？」