いつも聞いていたお父さんの言葉。

　お前たちのお母さんは、お前たちを手放したくて手放したんじゃない。
　お前たちを大切に思っていたし、今も大切に思ってる。
　それは、疑わないように。信じてあげて。



　お父さんは、基本的に他人行儀な人だ。
　甘えさせてはくれるけど、甘やかしてはくれない。
　あたし達に対しても、どこか一線引いたような態度を取っていた。

　だから、あたしは思ってしまったのだ。
　ひょっとしたら、自分はお父さんの実の子供じゃないんじゃないかって。

　お姉ちゃんは、髪の色がお父さんに似ていて、お父さんの血を引いてるなって見てわかる。
　でも、あたしには外見上では似たところはない。

　お姉ちゃんとあたしはお母さんが同じで、お父さんは違うんじゃ……



　悩んで悩んで、結局、お父さんに尋ねてしまった。

『あたしとお姉ちゃんは、お母さんもお父さんも同じだよね？』
『え？』

　その時、お父さんは一瞬だけ固まっていたような気がする。
　その後、バツが悪そうな顔をした。

『同じだよ。……最近元気が無かったのは、その事を考えていたからか？』
『……うん』
『そっか。──悪かったな、気付いてやれなくて。でも、お前もちゃんと俺の子だよ。安心して』


　よく考えてみると、お姉ちゃんにもあたしにも態度が変わらないってことは、そういうことなんだと想像できるけど、その時は、とにかくぐるぐると悩んでしまったのだ。
　お父さんに聞いて、本当にすっきりした。


　今でももちろんお父さんの言葉は信じている。

男はイオナの頭に視線を向けた