あたしの力で世界を渡る時、到着地点を選ぶことは基本的に出来ない。
　ただ、実際に到着する地点には共通点がある。
　それは、そういう道が出来ている、又は出来やすい所ということ。
　だから、ここに来た時も、この世界への入場口に着いたのだ。
　そして、他の世界から一揆の手伝いにやってきた人の流れに入ってしまった。

　どうぞ、と手渡されたものは『ネクター』
　当然、その時のあたしはこれが何なのかわからない。
　でも、その人は、あたしが一揆の参加者だと思っているから、そのままこの世界の説明を始めた。

　初めはネクターを返そうと思っていた。
　何か分からないし、自分には関係のないことだと思っていたから。
　ただ、その人の話にはあたしが話を切り出す隙が無く──多分、多くの人に同じ説明をしなければならないから早口で一気に説明したかったのだろう──説明を受けている内にネクターとエンブリオがなければこの世界では何も出来ないと思い、ネクターの恩返しも含めて、そのまま一揆に参加することになったのだ。

　この世界を包む何かは、エンブリオと契約して育てなければ自身の力を発揮できないようにしている。
　精霊魔法が周りに精霊がいないと使えないように。
　この世界では、エンブリオが全ての中心にいる。

　時々、初めにネクターをくれたあの人は今何をしているのだろうと思うことがある。
　まだネクターを配っているのだろうか。
　それとも、あたしが気付いてないだけで一揆に参加しているのか。

男は少し自分の発した言葉に考え込む様子を見せた。

そう言うと、男は微かに笑ったようだ。

眉がぴくりと動く。その表情には、苛ついた感情がありありと現れていた。

ぎりぃ…
拳を握りしめる。手袋に薄っすらと血の赤が滲む。